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学園生活3
「み、宮本。前を向いた方がいいんじゃないか?笹原先生が笑顔で睨んでるんだけど…」
「え~?そんな小さな事気にしなくていいよ。僕は天原君と仲良くするので忙しいし」
いやいや、それ違うから。何かが違うから。
「宮本…。初日から天原を困らせるな。前を向け、前を」
言葉の通じない相手に焦る俺が不憫に思えたのか、隣から穏やかに宮本をたしなめる声がかけられた。
そこに若干の呆れが含まれているように感じたのは、気のせいじゃないだろう。
声の主である真藤へ感謝の視線を送ると、それに気付いたのか軽く頷き返される。
また真藤に助けられたな。
「…むぅ…」
何やら妙な声をあげて不満そうな顔をしつつも、それ以上駄々をこねるのを諦めたのか大人しく椅子を戻した宮本に、ひとまず安堵の溜息を吐きだす。
そして同じく宮本の行動に溜息を吐いた真藤と目が合った。
両手を顔の前で合わせて口の動きだけで「助かった」と言うと、いや…と呟いて苦笑するその落ち着いた物腰。見習いたいものだ。
助けてもらってばかりでは情けない。そんな事を思っているうちにHRは終わり、教壇を下りた笹原先生は教室を出て行ってしまった。
それから一日、宮本にとり憑かれたりクラス中から質問責めにあったり…で、本当に大変な初日だったけど、いつの間にか無事に放課後を迎えられたのは、ひとえに真藤のさりげない助けがあったからだと言いきれる。
寮では秋に助けられ、教室では真藤に助けられ…。
慣れるまでは仕方がないと思いながらも、とにかくなんとか早く自立しようと心に誓った日だった。
出会ったばかりではあるものの、急速に仲良くなった真藤要と宮本薫の二人と共に食堂での夕食を終えたあと、これから遊ぼうと誘ってくる薫に「さすがに一日目で疲れたから」と断りをいれて部屋に戻ったその日の夜。
リビングにある座り心地の良いフカフカとしたソファに体を埋めるようにして座り、ここに来た初日の金曜日から今日までにあった色々な出来事を頭に思い浮かべた。
…濃い…。
思い返した後の感想はただ一言、それに限る。
何が濃いって、出会った人達の性質 だ。
「面白いと言えば面白いけど、大変といえば大変な…」
思い返せば思い返すほど、頭がパンクしそうになる。
…そういえば秋はまだ戻ってこないのかな。
体勢を崩してゴロンとソファに横になりながらそんな事を考えていると、
リンゴーン、リンゴーン
訪問者の到来を知らせる音が鳴り響いた。
反射的にソファから起き上がったはいいものの、
出ていいのか?
先日秋から言われた、『誰が来てもドアを開けなくていい』という言葉を思い出して躊躇してしまう。
あれは、初日限定の事なのか。それとも、これからずっと…なのか。
でもホラー映画じゃあるまいし、殺人者が来るわけじゃないんだから大丈夫だろ。
軽く考えてソファから立ち上がり、少しだけ皺の寄ってしまったワイシャツを適当に直しながら扉に向かった。…が、
「…………」
扉を開けた先に立っている人物を見上げた瞬間、後悔した。やっぱり開けなければよかった。
出来る事なら、このまま何も見なかった事にして扉を閉めてしまいたい。
「人の顔を見た瞬間に眉間にシワを寄せるな」
人差し指で眉間をピシッと弾かれる。地味に痛い。
…秋、ごめん。お前の言う事きいてれば良かった。
後悔しても後の祭り。
弾かれた眉間を手で撫でながら深い溜息を零した。
「なんで咲哉がこんなとこに来るんだよ…」
部屋を訪れてきたのは、この学園の理事長であり従兄弟でもある西条咲哉だった。
ダークスーツとはいえ、それでもじゅうぶん普通といえる格好であるにも関わらず、威圧感が凄い。
そもそも、寮の廊下にいること自体が似合っていない。
不審者を見るような目付きでその姿を見ていると、咲哉が呆れたように嘆息して口を開いた。
「こんな所って…、理事長が自分の学園内にいて何が悪い」
「悪いだろ。俺はお前と親類だってバレたくないの」
一般生徒の寮部屋を理事長自らが訪れるなんて、そんなの聞いた事もない。
こんなところを誰かに見られたらどうするんだ。
呆れが徐々に焦りへと変わる。
通路の奥を見ても今のところ誰かが通る気配はないけれど、いつ誰が通るかは全く予測がつかない。
ハラハラしながら俺がそんな事を思っているのに、目の前に立つ相手はそんな事を露とも気にせずマイペースに話しかけてくる。
「どうだ?ここの学園生活は」
「…どうもこうも…、まだ始まったばかりだからわからないって。それより早く帰れよ」
「黒崎はどうだ?」
「秋?…どうって…、良い奴だけど。…って、お前人の話ぜんぜん聞いてないだろ」
相変わらずのマイペースさに脱力する。抗おうとする俺が悪いのか…とすら思ってしまう。
扉枠に肩をつけて寄りかかりながら、もうどうにでもなれ…と咲哉を眺めていると、
「…上手くいっているならいい」
何かを考えるようにそれだけ言って踵を返し帰ろうとするその姿に、さすがに慌てた。
「ちょっ…、待てよ、なに」
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