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学園生活4

寄りかかっていた扉枠から体を起こし、咄嗟にスーツの裾を掴んで引っ張る。 そこまでされれば、いくら俺様な咲哉であっても歩き出そうとしていた足を止め、怪訝そうな表情を覗かせながらこっちをチラリと見下ろしてきた。 「なんだ」 「なんだじゃないよ。それはこっちのセリフ。結局何しに来たわけ?」 「お前の学園生活に支障がないか確かめに来ただけだが?」 「………」 それ以外に何がある、とばかりに言われてしまえば、もう何も言えない。 モヤモヤしたまま、渋々と袖から手を離した。 そんな俺の何が面白かったのか…、フッと楽し気に笑いを零した咲哉は、俺の頭に片手を伸ばして優しくクシャッと髪をひと撫でしてきた。かと思えば、すぐにその手は離れていき、余韻もなくさっさと歩き去ってしまう。 …本当になんなんだ…。 たくさん関わったら関わったでろくでもない事ばかり言うけど、本心を言わなければ言わないで、それもまた気になる。 ただでさえ消化不良な事ばかりなのに、お前もか!って言いたい。 不満のような不安のような変な気持ちを抱えたまま、悠々と歩いていく咲哉の後ろ姿をボーっと見つめた。 前からそうだけど、いまいちよくわからない奴…。 そんな事を思いながら、乱された頭に何気なく手をやった瞬間、ハッと我に返る。 思いっきり咲哉の術中にハマってる! 俺が翻弄される事に喜びを見出す男の思い通りになってたまるものか。 ここで悩んだらあいつの思うツボだ。 咲哉の行動は気にするな。いつもの事いつもの事。気にした方が負けだ。 いや、そもそも、何もなかったし誰も来なかった。 無理やり自分に暗示をかけながら、余計な思考を遮断して大人しく部屋に戻った。 深の寮部屋から理事長室へ戻った咲哉は、どっしりとした黒い皮張りの椅子へ身体を投げ出すように座って足を組み、机の上に置いてあった資料を手に取った。 そこに記載されているのは、黒崎秋の個人情報。 「…黒崎家の御曹司。…長男よりも有望視されてるって噂は、どこまでが事実なのか…。ハッキリ敵対していないとはいえ、深と黒崎を近づけてもいいだなんて…、天原さんも何を考えて…」 思案に沈む低い声で呟くように言いながら、手に持った資料を机の上に落とす。 手元を離れパサッと乾いた音を立てたその資料に一瞬だけチラリと視線を向けるも、座っている椅子をクルリと半回転させてしまえばもうその存在を脳裏から消す。 窓の外を見つめ、暗闇に沈む景色に深の姿を思い浮かべた。 手元に置きたくて、弟である高哉を動かした。だが、果たしてそれが良かったのかと考えると……。 珍しく逡巡する思いで溜息を吐く。 そして背もたれに深く寄りかかり、強い光を放つその眼を静かに閉じた。

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