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学園生活5

†  †  †  † 編入してから二週間ほどたった日の昼休み。 この学校にもだいぶ慣れてきた今日この頃。 いつものように、昼食をとる生徒でごった返す食堂内の一角に席を取ると、真藤と薫と三人でそれぞれ選んだ食事を前に幸せな時間を過ごしていた。 全校生徒を一気に収容できるくらい広い食堂は、白と木目を基調に明るく爽やかな雰囲気を作り出している。 洋食・和食・ノンジャンルの三種類から選べるメニューは、毎日の食事を飽きさせないようにする為の料理人の心意気だ。 そんな活気のある場所で、自分が選んで持ってきた昼食を食べながらの会話が弾まないわけがない。 例に漏れず、この二週間の食事はいつも楽しい時間となっていた。 編入初日から、気がつけば常に一緒に行動している俺達。 薫にはかなり気に入られてしまったらしく、呼び方も強制的に名前呼び捨てへと変更させられてしまったけれど、それすらも親しくなるキッカケとなった気がする。 「いただきます」 目の前で礼儀正しく両手を合わせている薫に、相も変わらず感心した眼差しを向けた。 一緒に食事を取るようになって気がついた事だけど、薫は必ず食事前にきちんと手を合わせて挨拶を口にする。 俺なんかは適当に「いただきまーす」と口にするだけで手を合わせる事まではしない。 真藤に至っては何も言わずに食べ始める。 …まぁ、こいつが可愛らしく「いただきます」とか言うのも似合わなくて怖いけど…。 スプーンを片手に2人を眺めてそんな事を思っていると、目の前に座っている薫が突然俺の選んだ食事を見て不満そうに睨んできた。ちょっと怖い。 「…なんだよ」 「深くん、また野菜ばっかり!」 「薫くんの目は節穴ですか。野菜以外も持ってきてるだろ」 「ポトフに入ってるベーコンは肉とは言わないの!」 「あ、いまベーコンをバカにしたな」 茶化すように言った途端、隣に座っていた真藤が肩を震わせて笑いだす。 最近ではパターン化したこのお笑いのようなやりとり。 まだ笑っている真藤の腕を肘で小突いてから、ポトフに入っているベーコンを口に入れて味わっていると、突然薫が動きを止めて俺の顔を見つめてきた。 思わず、噛んでいたベーコンをまだ形のあるままゴクンと飲み込んでしまう。 「…今度はなんだよ」 行儀悪く口端を親指で拭いながら若干身構えて問いかけると、薫の口からは思ってもみなかった質問が零れ出た。 「そういえば、深君って誰と同室なの?」 「…誰と…って、前に言わなかった?」 「聞いてない」 あれ?と過去の自分の言動を思い返しながらも、今度はポトフの人参を口に入れようとする、が、その直前でピタリと動きを止めた。 何故だかよくわからないが、薫の顔が壮絶に不機嫌になっている。 …俺、何かした…か…? 食べようと思っていた人参を、恐る恐るポトフボウルに戻して何気なく視線を横に逸らす。 最近思った。怒らせたら一番怖いのは薫なんじゃないかと。 一緒にいて一月もたってないけど、時々妙な迫力を感じる。 おまけに、怒りのポイントがわからない。 どうしたものか…と考えながら前に向き直り、取りあえず質問には答えを返した。 「同室は黒崎って奴」 「「黒崎!?」」 特に隠す必要もなかったし普通に答えたけど、答えた瞬間に前と隣からユニゾンで聞こえた声に思わずビクッと肩を揺らしてしまった。 「…なんだよ、二人とも…」 「黒崎って、まさか黒崎秋(くろさきしゅう)君?」 「そ、うだけど…。…二人とも(あき)のこと知ってんの?」 「知ってるも何も…、黒崎君っていったら…、っていうよりも、深君は黒崎君のことシュウじゃなくてアキって徒名で呼び捨てにしてるんだ?」 薫の驚きようは普通じゃない。ただでさえグリグリと大きな瞳が、今にも零れ落ちそうになっている。 怒りのポイントどころか、驚きのポイントすらもわからなくなってきた。 さっぱり意味がわからずに隣を見ると、真藤は真藤で眉を寄せた渋い表情を浮かべている。 二人のこの反応はなんだろう…。 「深君は、黒崎君から何も聞いてない?」 「黒崎が自分から言うわけないだろ」 俺に向かって問いかけられた言葉に、真藤が反応する。 目の前で繰り広げられるまったくもって意味不明な会話に、食事をする手も止まってしまう。 「ん~…、でも同室なら深君も知っておいた方がいいと思わない?」 「まぁ、な…」 ボソッと呟いてまた食事を再開した真藤を横目に、薫が改まった態度で俺の方を向いた。 その様子につられて、思わずピシッと背筋を伸ばしてしまう。 いったい何を言われるのか…。

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