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学園生活6
真剣な表情で薫を見つめていると、しばらく置いた後にちょっと驚く話がはじまった。
「黒崎君ってね、黒崎コンツェルンの次男なんだよ。黒崎グループ知ってるでしょ?ホテルとかレジャー系を国際的に展開してる会社」
「…黒崎グループの…次男…?」
たぶん、この階級にいる人間なら誰もが知っているであろう大財閥、『黒崎コンツェルン』
まさか秋がその次男だったなんて…。
思ってもいなかった事実に呆然としてしまう。
そんな俺に困ったような笑いを浮かべて、溜息を吐きながらも言葉を続ける薫。
「うん、凄いでしょ?おまけに文武両道で顔もいいから目立つんだよ。皆が隣に並びたがってる。…でも本人は、一定以上の付き合いを周りに許さないんだ。優しく見えるけど、実際は結構冷たいかも」
「冷たいって…、秋が…?」
今日までに俺が見てきた秋にはありえない言葉。
面倒見が良くて笑い上戸で、ちょっと意地悪だけど根本は優しい。
俺が知る秋はそんな人物。
冷たいだなんて欠片も思った事はない。
でも、薫たちが言うのなら、それが間違っているとも思えない。
…いったい、どれが本当の秋なんだ…?
自分の持っている情報と薫から差し出された情報がうまく混じり合わず、頭が混乱する。
眉間にシワを寄せてウンウン唸っていると、隣から真藤がチラリと視線を向けてきた。
「…なに」
とりあえず秋の事を考えるのをやめて真藤に意識を向けると、また別の微妙な質問が飛び出した。
「こういう話が出た場だから聞くけど、天原も同じような家柄なんじゃないのか?」
「え?なになに、どういう事?同じような家柄って…、深君のおうちが?天原だよね?……ん?天原…?…え、もしかして…」
最初は不思議そうな表情をしていた薫の顔が、徐々に驚きへ変わっていく。
これは気付かれたか?
隠すつもりはなかったけど自ら言うつもりもなかったのに、真藤め…。
目を細めて恨みがましく横を見ても、真藤はシラっとそ知らぬ顔している。
黒崎から天原まで話が飛ぶ事は考えられなかった事じゃないけど、いざ問い質されると、心のどこかで躊躇いが生じてしまう。
天原の名前がどれだけ周りに影響を与えるかイヤになるほど実感している俺にしてみれば、知られずにすむならそのままにしておきたかったのが本音だ。
でも、この二人なら話しても大丈夫だと、心のどこかで信頼しているのも事実。
その信頼を本当のものにしたくて、心の躊躇いを打ち消して口を開いた。
「真藤の予測通り。…俺は、天原グループの人間だ」
「えっ!?」
真藤は既にわかっていたのだろう、全く驚いていないけれど、代わりに薫の方が「大丈夫か?」と心配になるくらいに驚いている。
「天原グループって言ったら、IT関係のトップに君臨していて、おまけに…この学校の…」
「うん。この学校の理事長、咲哉は俺の従兄弟」
これにはさすがに真藤も絶句してしまった。
俺が天原の人間という事は気付いていたけど、咲哉と俺との繋がりまで考えていなかったらしい。
それにしても、咲哉が天原関係だって薫はよく知ってたな…、苗字も違うのに。
っていうか俺なんてここに来るまで、咲哉が月城学園の理事長をやってる事すら知らなかった。
咲哉は、俺の父、天原隆介 の姉、天原綾子 の息子だ。
綾子さんは今も現役で、天原グループの子会社の社長をやっている。
そして、咲哉の父であり綾子さんの夫でもある西条の叔父さんは、西条コーポレーションの代表取締役社長。
一時期は、父に頼まれてここの理事長も兼任していたみたいだけど、今は咲哉にその全権を委ねて自分は西条コーポレーションに全力を注いでいる。
黒崎・天原の両家には適わないかもしれないけれど、西条家もそれに準ずるくらいのかなりの家柄だ。
俺は今まで、そういう『上流階級の付き合い』というものが苦手で、次男という立場に甘えて逃げまくっていた。
だからこそ黒崎家の……、秋の事にも気付けなかった。
逃 れていて良かったのか逃れなかった方が良かったのか、そんな事を今更になって考えてもしょうがないけど、逃れていなかったら、もっと早くに秋と…そしてこの二人と出会えていたのかな…なんて事を考えてしまう。
その時突然、思い出したかのように薫が顔を上げた。
「あれ!?確か天原グループの直系ってロシア系の…」
そこまで言うと、テーブル越しに身を乗り出してグイッと顔を覗き込んでくる。
反射的に仰け反りそうになった俺には全く構わない様子でジーッと凝視してきたあげく、目を見開いた。
「深君、日本人っぽくないとは思ってたけど、もしかして…」
「俺はロシアとのクウォーター。お祖母様がロシア人。ここまであっちの遺伝が出てるのは俺だけだけどね」
肩を竦めながらそう答えた瞬間、薫の目がキラキラと輝いた。
何を言い出す気だ?こういう時に出る言葉は大抵まともじゃない。
「王子様っ!」
「……」
…やっぱり…。
スプーンを片手に思いっきり脱力した俺と、ブフッと噴き出してフォークをテーブルに落とした真藤。
俺達の脳裏にはたった1つの言葉が浮かんでいた。
『天然最強』
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