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学園生活10
結局その日の生徒総会は、周りで騒いでいる奴らのせいで、結果がどうなったのかよくわからないまま終わってしまった。
議題が《長期休みにおける課題について》だったから、出来るだけ課題が少なくなる方向で参加しようと思っていたのに。
ただ、もし周りが静かだったとしても、鷹宮さんに驚いてまともに参加出来なかった可能性もある。
俺がそんな状態で脱力している間、隣に座っていた真藤がその怜悧な眼差しで俺と鷹宮さんの様子を見ていたなんて、まったくもって気が付かなかった。
生徒総会が終わった日の夜。
寮部屋のリビングでボーっとテレビを見ていたものの、無性に炭酸飲料が飲みたくなってソファから立ち上がった。
ちなみに、普段は炭酸飲料なんてほとんど飲まない。
普段飲まない物だからこそ、冷蔵庫にストックなんてない。
「…買いに行くか」
寮棟の一階にあるロビーに各種の自販機が設置されている事を思い出して、すぐさま行動を開始。
部屋を出る時、自分の机に座って何かの書類を作成していた秋から、
「『飲み物買ってあげるから一緒においで』とか言ってくる変な人がいても、着いていったらダメだよ」
なんて、冗談の割には真顔で言われたけど、いくらなんでも学校内にそんな変な奴はいないだろ。
そもそも、何故それを俺に言う…。
秋からどう思われているのか疑問に思いながらも辿り着いた薄暗いロビー。
壁際に並んでいる自販機のディスプレイを前に秋の言葉を思い出して複雑な気持ちになっていると、突然背後から声をかけられた。
「あれ?もしかして深君?」
人の気配がまったく感じられなかったロビーで誰かに話しかけられるとは思っていなかったせいで、大げさなくらいにビクッと体を震わせてしまう。
「……鷹宮さん…?」
振り向いた先にいたのは、今日の総会の主役。鷹宮京介さん本人だった。
もしかして今帰ってきたのか?と思われる制服姿に、ちょっとだけ驚く。もう夜なのに…。
思いがけない人物との遭遇に戸惑いながらも会釈すると、相変わらず優雅な雰囲気の鷹宮さんが隣に立って、
「何か買うの?奢るよ。それ持って今から僕の部屋においで」
なんて言うものだから、危うく吹き出しそうになってしまった。
いたよ変な人…。
秋の言葉通りの展開に、感心するやら可笑しいやら。
それが鷹宮さんだったからこそ余計に微妙だ。
「あの、遠慮しておきます。秋から、変な人に着いていっちゃダメだって言われてるんで…」
「じゃあ大丈夫。僕は変な人じゃないから」
…いや、じゅうぶん変だと…。
そういえばこの人、日本語が通じてるわりには意思の疎通が難しかった気がする。
先日の出来事を思い返して、少しだけ顔が引き攣ってしまった。
今回は秋の助けは得られないから、自分でなんとかしないと。
そうこうしている内に、さすがというかなんというか…、目の前で鷹宮さんがどんどん行動を進めていくではないか。既に自販機にはお金も投入されてしまった。
「はい、どうぞ」
「いや、だから、自分で買います」
俺が拒否するとは微塵も思っていないらしい、スマートながらに強引な行動。
こんなところも相変わらずだ。あまりにもこの人らしくて、逆に面白い。
でも、内心で面白がっている俺とは違って、拒否した途端に鷹宮さんの眉がムッとしたように顰められた。
「なんで遠慮するの?僕が生徒会長だってわかったから?」
そこで思いだした、この人の人気の凄まじさを…。
こんな所で2人っきりでいるのを誰かに見られたら、嫌がらせの1つや2つや3つや4つ、受けるはめに陥るんじゃないか?
ようやく、今のこの状況の危険さに気がつく。
これから先の平穏無事な生活を望むのならば、飲み物よりも何よりも、早く部屋に戻る事を選択した方が身の為かもしれない。
その結論に至ったが最後、鷹宮さんなんて放置だ放置。自分の安全には代えられない。
ニコニコーっと微笑み返し、すかさずロビーの出口に向かって足を踏み出した。
けれど、…天は俺を見放した…
「あっ。鷹宮会長!こんばんは!」
ロビーに入ってきた誰かが鷹宮さんに声をかけてきた。おまけに、知り合いらしいところがもう…。
こうなったら、通りすがりの赤の他人を装って知らぬ振りをするしかない。
ひたすら自己保身を考えながら、近づいてくる相手を何気なく見やって…――驚いた。
「…あ…」
歩き出そうとしていた足が止まり、思わず声が零れ出る。
そこにいたのは、この前渡り廊下で秋の左隣にいた、黒髪の似合うアジアンビューティー君だった。
向こうも今の声で俺に気がついたらしく、こっちを見た瞬間にそれまでの笑顔が消える。
その瞳に、(なんでアンタが鷹宮さんといるんだよ)とでも言いたげな色が浮かんでいるけど、それはこっちも聞きたいくらいだ。
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