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学園生活13

†  †  †  † 梅雨に入りかけている微妙な季節になってきたせいか、湿気を含み始めた重い空気が蒸し暑さを感じさせる今日この頃。 特に部活も決めていない為に放課後は自由な時間が多く、教室に残っているクラスメイトとくだらない話をしたり、学校内にある購買としてはかなり規模の大きいそこで買い物をしたり、好き勝手に過ごしている事が多い。 けれど今日は、ちょっといつもとは違う行動を選んだ。 落ちかけている夕日に照らされて徐々に赤みを帯びはじめた校舎内。 散歩している途中で見つけた、特別棟一階の奥にあった図書室。 独特の雰囲気に好奇心を誘われて立ち止まった。 …綺麗だな…。 ガラス扉越しに見える室内を眺めて思った感想。 図書室って暗いイメージがあったけれど、ここは全く違う。 床が全面絨毯張り。校舎の先端に位置している為か、ちょっと変わった半円の形をしていて、緩いカーブを描いている壁側が全面ガラス張りになっている。 そこからは緑多い外の景色も眺められるし、太陽の光も優しい感じで差し込む。 前にいた私立高校の図書室とは全く異なる空間に、感嘆の溜息が零れた。 特に夕方である今は太陽の光もオレンジ色に染まり、どことなく物憂げで儚い、なんともいえない様相を見せている。 その雰囲気に魅せられ、気が付けばガラス扉を押し開いて図書室内に足を踏み入れている自分がいた。 「………無人?」 扉を入って左手側に貸し出しカウンターはあるものの、委員会の生徒や司書の先生が見当たらない。 鍵も開いてたし、入っても大丈夫だよな? ちょっとだけ不安が過ぎったけれど、奥へ向かうにつれてそんな心配も時の彼方に消え去ってしまった。 図書室内の静寂なる雰囲気。静謐さと威厳さを醸し出す重厚な書棚と蔵書。 それらに加え、やわらかく差し込む夕陽のオレンジ色。 思わず圧倒されて、室内の真ん中辺りで立ち尽くしてしまった。 ある種の異空間に紛れ込んだ気分だ…。 呼吸さえも潜めたくなるくらい静かな空気に身を縛られる。 突然、背後から何かにポンっと肩を叩かれた。 「…っ!?」 うぎゃっと叫びたいところを寸でで堪えて振り向くと、ストイックさを醸し出すはずのゴシック調制服を見事なまでにセンス良く着崩している宮原櫂斗が立っていた。 バクバクと激しく鼓動を刻んだ心臓とは裏腹に、思いっきり脱力する。 いったいいつからここにいたのか…。とりあえず気配を消すのだけはやめてもらいたい。本気で驚いた。寿命が縮む。 深い溜息を吐いていると、宮原が顔を背けて笑っている事に気がついた。 「…なに…、その笑い」 「だってアンタ凄ぇ変な呻き声上げて…、ククッ」 そしてまた笑いだす相手に、原因はお前だろ!と叫びそうになったが、そういえばコイツはこういう奴だったよ…、と以前のやり取りを思い出して諦めの境地に辿りつく。 言い返しても勝てる自信がない。逆にやりこめられるのがオチだ。 そこでもう一つ重要な事を思い出し、すかさず数歩後退る。 あの時、半径2メートル以内には近づくなと念を押したはず…。 同じような目に合ってたまるかと警戒して宮原を見ると、その顔からはもう笑いが消えて無表情に戻っていた。 油断のならないその吊り上がり気味の鋭い双眸をじーっと見つめ、いつでも逃げられるように退路を確認しながら口を開く。 「…で?何?」 「何って…、何が?」 …うん、俺の言葉が足りないよな…。 意味がわからないといった感じで眉を寄せる相手を見て、少しだけ反省。 生意気な割には反応が素直なところが妙に可愛い。…いや、可愛くないけど。 「何が、って…。俺の肩を叩いてきたのはお前だろ?何か用があるのかと思って」 「アンタが入ってきたから挨拶しようとしただけじゃねぇか。それとも何?何かされるのを期待してたのか」 「はぁ!?そんなわけないだろっ!」 聞いた俺が馬鹿だった。やっぱり宮原は宮原だ。本当に相変わらず生意気すぎる! ニヤニヤと意地悪く笑う相手を睨んで文句を言ってやろうと口を開いた。けれどすぐにまた閉じた。 ……危ない…、またコイツのペースにはまるところだった。ここで言い返したら絶対にろくな事にならない。 ようやくそこに気がついて、退路に向かってすぐさま足を踏み出す。

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