32 / 226
学園生活14
「もういい。特に用があってここに来たわけじゃないから帰る。じゃあな」
早々に話を切り上げて、宮原の返事も聞かないままその横をすり抜ける。…はずが、それは叶わなかった。
不意に横から伸びてきた手に腕を掴まれて思いっきり引っ張られる。
「な…ッ」
体勢を崩してよろめいたところをなんとか踏みとどまろうとしたけれど、力強い腕が腰に回されて抱き寄せられてしまえばそのまま倒れ込む事しかできない。
何が起きたのかわからない状況の中で咄嗟に思ったのは、宮原って細身に見えたけど意外にしっかりした体つきをしているな…という事。
制服を通して伝わってくる仄かな体温に、心臓がギュッと縮むような息苦しさを感じた。
そうやって茫然としたのも束の間、ハッと我に返ると慌てて宮原の胸元に手を着き、出来る限りの力で押しのける。
「…ッ離せよ!」
けれど俺のそんな抵抗なんて微塵にも感じていないのか、余裕の表情で更に力を込めて腕の中に閉じ込められた。
焦りが増し、早くなる心臓の鼓動。
宮原から醸し出される捕食者としての雰囲気が、攻撃的とまでは言わないけれど危機感を呼び起こす。
隙を見せたら首に食いつかれそうで、とにかく逃げたい。
「はーなーせっ!」
「なんで?」
「なんでもいいから!とにかく離せ!」
腕の中でもがいても、余裕の宮原は楽しそうに鼻先で笑っている。
なんかムカつく!
睨み上げると、視線が合った瞬間に宮原の顔から笑いが消えた。この表情の激変が怖い。本当に怖い。
細められた双眸が物騒すぎて、思わず固まってしまう。その隙に近づいてくる宮原の顔。
「…な…に…」
見下ろしてくる瞳の迫力に気圧されて、ゆっくり近づいてくるその整った顔をただただ見つめる事しかできない。
あ、ヤバイかも…。
そう気付いた時にはもう遅く、唇に柔らかな熱が触れた。
「…ッ!」
驚愕に茫然と目を見開いたままの俺から目を逸らさないまま、触れただけの唇はすぐに離れた。
咄嗟に言葉を紡ごうと開いた口に、今度はもっと強く宮原の唇が押し当てられる。
ビクリと体を震わせて逃れようとしたけれど、ぬるりとした熱い何かが唇を割って口腔内に忍び込んできた。
それが宮原の舌だと自覚した途端、体中を一気に血が駆け巡る。
慌てて身体を押しのけようとしたけど、俺の事を抱きしめている力強い腕はビクともしない。
それどころか、こぼれる吐息までも絡め取るように深くなる口付けに意識が持っていかれてしまう。
「…ッ…ん…やっ…」
口蓋を舌先でなぞられたかと思えば、どうしていいのかわからない己の舌に宮原のそれが絡みつき、溢れてくる唾液を抵抗の言葉ごと強引に飲み込まれていく。
ゾクゾクする身体の反応をどうにも制御できないでいると、俺のそんな状態がわかったのだろう…宮原の目が楽しそうに細められた。
いったい何故こんな事になってしまったのか…。頭の中が真っ白の状態でその疑問だけがぐるぐると巡る。
その時、抱きしめられて密着している腰部分に何かを感じて、押し離そうとしていた腕をピタリと止めた。
当たるそれが何なのか理解した途端に火を噴きそうな勢いで顔が熱くなった。
…コイツ…っ…。
それは、僅かに反応を示し始めていた宮原の欲望だった。
「…も、…やめ…!」
さすがに身の危険を感じ、僅かにずれる口端の隙間から途切れ途切れに拒否の言葉をつなげる。
けれど、逆にそれが宮原を煽ったのか、片手がワイシャツの裾をめくって脇腹に触れてきた。
「ん…っ!」
直に触れてくる手の感触に堪えきれず声がこぼれ落ち、身をよじる。
そんな反応をしたら更に宮原を煽るだけだと後悔してももう遅い。
焦って必死に逃れようと顔を背けると、俺の声が聞こえたらしい宮原は楽しそうに口端を吊り上げ、滑らせるようにその唇をずらしていき、頬を辿り、耳たぶを掠って首筋を舐めた。
そして、いつの間にか開かれていた襟元から覗く鎖骨部分に強く吸いつかれる。
「痛…っ…!」
抓られたような痛みに一気に目が覚めた。
な…、何してんだよコイツはーっ!
抵抗はしていたものの、妙な雰囲気に飲まれそうになっていた自分に気づいて冷や汗が出そうになる。
相手の手がいまだに脇腹にある事に気がついて、思いっきり足を踏んでやった。
「いっ…てぇ…」
これはさすがに痛かったようで、眉を顰めた宮原が嘆息と共に渋々と手を離す。
こんなことなら最初から足で蹴ればよかった。
ようやく解放されたところで、思いっきり後退って距離をあける。
ともだちにシェアしよう!