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学園生活15
「…いてぇんだけど」
めちゃくちゃ不機嫌そうに睨んでくるけれど、文句を言いたいのは俺の方だ。
「いきなり変な事してきたのはお前だろ!」
今更だけど手の甲で唇をグイっと拭い、いまだ熱い頬を自覚しながらも睨み返す。
本当は足を踏むどころか殴ってやりたいたけど、それでまた腕を掴まれたら意味がないから殴らないだけ。
踏まれただけで済んだ事に感謝してほしいくらいだ。
怒りたいのか羞恥で逃げたいのか…、もうよくわからない複雑な気持ちを抱えたまま宮原を見る。
………ん?
自分の目におかしな光景が映る。
気のせいか?
さっきよりも更にまじまじと宮原の顔を見つめる。
でもやっぱり気のせいじゃない。
宮原の顔が、赤くなってる…?
「…おい…」
「…ぁあ?なんだよ」
「なんだよじゃなくて…、なんで照れてるんだよ…」
勘違いじゃないと思う。どう見ても俺の目には、宮原が照れているようにしか見えない。
思わぬ展開に、怒っていた事も忘れて目の前の相手を凝視してしまう。
こいつでもこんな顔するんだ…。っていうかなんで?
俺が本気で不思議そうに見ている事に気がついたのか、視線が合った瞬間、宮原の顔が更にカッと赤くなった。
…なんだこれ、面白い。
「笑ってんなよ、ムカつく…。ずいぶん余裕じゃねぇか。さっきまで俺のキスに感じてたくせに」
「はぁ!?誰が感じてたんだよ!?」
「アンタ」
「…~~ッ」
やっぱりコイツはどこまでいってもこういう奴だよ!
すでに無表情に戻って反撃をしてきた宮原の態度に、諦めの溜息を深く吐き出す。
でも、自分のした事に照れている宮原を見てなんとなくホッとした部分もある。
生意気で手慣れているように見えても、年下らしい可愛らしさもあるんだなーって。
だからといって、許せる事と許せない事があるけどな!
また少しだけ怒りが戻ってきた。
「次にこんな事したら本気で殴るからな」
「殴られる前に押し倒すから平気」
「平気じゃないだろ俺が!根本が間違ってる事に気付けよっ」
どこまで本気で言ってるのか…、なんでここまで俺に構うのか意味がわからないけど、お前の考えは間違っているとハッキリ言っておかないと後が怖い。
言ったからといって理解してくれたかどうかは別として。
溜息を吐き、とりあえず言いたいことは言ったし用もないから、今度こそ図書室を出ようと歩き出した。
斜に構えてその場でたたずんでいる宮原の様子を視界の端に捉えながら足を進める途中、改めて疑問が湧き起こった。
宮原の行動って嫌がらせなのか?でも、わざわざ嫌がらせするような性格にも見えない。だからといって嫌がらせじゃないなら…なんだよ…。
モヤモヤする。でも、考えたってわかるわけもない。
緩く頭を振ってその疑問を脳裏から振り払い、扉に手をかける。そして廊下へ出ようとした瞬間、それまで何も言わなかった宮原がボソッと言葉を発した。
「…アンタの事、気に入った」
驚いて思わず足を止めて振り返ると、宮原はこっちを見る事もせずにさっきと同じ位置にたたずんだまま。
…気に入ったとか聞こえたような気がしたけど、聞き間違い…だよな?
「…今、なんか言った?」
「アンタのこと気に入ったって言ったんだよ。月宮の森で会った時から、な」
「月宮の森…って…」
「最初に会った森。アンタみたいに美人で面白い奴と会ったのは初めてだ。逃がさねぇから覚悟しとけよ」
その言葉と共にこっちを見た宮原の瞳が、まるで何か獲物を見つけた獣のようにギラリと光を放ったような気がして息を飲んだ。
それは窓から入り込む夕日の加減かもしれないし、そうじゃないかもしれない。でも俺にはそれが、今にも喉元に牙を突き立ててきそうな、そんな眼差しに見えた。
もう思考回路が真っ白だ。
いったい宮原は何を言ってるんだ。気に入ったって…逃がさないって…、なんだよ…。
茫然と見つめるも、そんな俺の動揺に気付いているのかいないのか、本人は楽しそうにニヤリと笑うだけ。
返す言葉も思いつかず、居たたまれなくなって逃げるように図書室を出てしまった。
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