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学園生活19
「…俺は見世物じゃないんですけど?」
自分でも自覚するくらい喧嘩ごしの尖った口調。でも構うものか。
こういう人物に対して礼儀で返す必要なんてない。相手の方がよっぽど失礼だからだ。
特権階級タイプの人間を、本当に苦手だと感じるのはこんな時。
タイピンがエメラルド色なのを見れば相手が鷹宮さんと同じ3年だという事がわかる。
それでも、俺は我慢する事が出来なかった。
生徒会の人間がこういう態度ってどうなんだよ!という怒りが大きい。
生徒の模範となるべき立場のはずなのに、自分の優位性を見せつけたいがために役員になったのか?
こういうタイプの人間は、目下だと思っていた人間に言い返されるとプライドが傷つくらしく、反論されると物凄く腹が立つらしい事は今までの経験上でわかっている。
だからこそワザと生意気な態度をとった、のに…。返ってきたのは思いもよらない反応だった。
僅かに目を見開いたかと思えば、鷹宮さんの肩にかけていた手を外し、さっきまで浮かべていた軽薄な笑みを消した。
「あー…、悪い。馬鹿にするつもりじゃなかった。気分を悪くさせたならすまない」
そう言って真面目に謝罪の言葉を口にしてくれたんだ。
驚いたなんてものじゃない。睨まれるか何か言われるかのどちらかだと思っていたのに、まさか謝ってくるとは思わなくて…、固まったままただひたすら相手を見つめてしまった。
傲慢そうに見えるけど、もしかしたらこの人は…。
目の前に立つ人物への認識を改めると、今度はさっきの自分の態度が思い出されてその未熟さが恥ずかしくなってきた。
馬鹿は俺の方だ。
「こちらこそ生意気な事を言ってすみませんでした。…ちょっと警戒し過ぎてたみたいです。本当にすみません」
情けなさに沈む声のまま頭を下げて謝罪する。これで呆れらてしまっても自業自得だと胸に刻んで。
でも実際は違った。呆れられるどころか、見惚れるくらいの格好良い笑みを浮かべて「気にするな」と言ってくれた。
自分の、人を見る目のなさを再度実感する出来事となった。
そして、俺達がそんなやりとりをしている中、鷹宮さんの意識は真藤と薫に向けられていたらしく、そちら側では和やかに会話が進んでいた。
「真藤君と宮本君。こんにちは」
「鷹宮会長、こんにちは!」
「こんにちは」
微笑みあう鷹宮さんと薫に、無表情の真藤。
…俺が言うのもなんだけど、真藤、もう少し愛想良くしてもいいんじゃないか?
チラリと見た先にあるその無愛想な対応に、真藤らしいというかさすがというか…、脱力した笑いが出てしまう。
「まさか2人が深君と友達とはね…、驚いたよ」
「僕達同じクラスなんですよ。編入してきた深君に僕が一目惚れして声をかけたんです」
「アハハ、なるほど」
一目惚れって…薫、それ何か違う…。
真藤の不愛想さに気を取られているうちに、鷹宮さんと薫の間で恐ろしい会話が進んでいた。
このままこうやって話をしていたら、妙な方向に話が転がって行く気がして非常に怖い。
おまけにその話の中心が俺の事だっていうのが……、…やめてくれ…。
楽しそうに会話する2人を交互に見つめて、どうやってこの場から抜け出そうと密かに考えていると、隣にいた真藤が突然立ちあがった。
前触れのない動きに、その場にいた皆が注目する。もちろん俺も。
「俺達はもう食べ終わったので、そろそろ行きます。会長達も早く食べないと昼休みが終わりますよ」
そう言って俺と薫に視線を向けてきた。顔には(さっさとしろ、行くぞ)と書いてある。
真藤偉い!
たぶん俺の表情から気持ちを読み取ってくれたのだろう。
肩をバシバシと叩いて褒めたい気持ちを抑えながら、トレーを手に立ち上がる。
視界の端には、俺達と同じようにトレーを持って立ちあがる薫の姿が見える。
「失礼します」
鷹宮さんに引き止められたら大変だとばかりに早口で挨拶をし、キョトンとしたようにこちらを見ている生徒会役員の人達と目も合わせず早々にその場から立ち去った。
そんな深達の後ろ姿を見送っていた生徒会役員一同。
さっきからずっと興味深げに深の事だけを見つめていた人物、夏川桐生 が、楽しそうに鷹宮の耳元に口を近づけた。
「本当に珍しいタイプだな。あれ誰?」
「ん~?秘密だよ」
姿の見えなくなった後輩からようやく視線を外した鷹宮は、横に立つ幼馴染を見て僅かに嫌そうな表情を浮かべる。
それでも夏川は、そんな表情を露とも気にせず更に楽し気に笑みを深くする。
「秘密って…。お前がそんな事言うなんてもっと珍しいな。興味をそそられる」
「ダメだよ。桐生に興味を持たれたら深君が可哀想だ」
鷹宮の眉間に皺が寄った。それを人差し指で突いてくる夏川の手を煩げに振り払うも、本気で怒っているようには見えない。
「クククッ。お前に興味を持たれた方が厄介なんじゃないの?」
「失礼だな。桐生には言われたくない」
仲が良いのか悪いのかわからない二人のやり取りを見守る他の役員達。
『どっちにしろ、あんた達二人に興味を持たれた時点で、あの子のこれからが心配だよ』
なんて思われているなんて、当の本人達は気付いているのかいないのか…。
そんな彼等を、一般生徒達は食事する事すら忘れて手を止め、憧れの眼差しで見守っていた。
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