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学園生活20
† † † †
『……というような事を耳にしてね。さすがに私も深がどうしているか気になってしまったよ』
受話器の向こう側から冗談めかした声と共に笑い声が響く。
「そうですね。やはり黒崎家の人間と同室という事もあって妬みはあるみたいですが、仲の良い友人もできたようですし。あとは本人の頑張り次第かと…」
『そうだな…。せっかく月城に入ったんだ、人間付き合いに揉まれて自分で這い上がる力を身に付けてほしいね』
「彼は人を惹きつける力を持っていますし、その辺りは大丈夫だと思いますよ」
『親馬鹿かもしれんが、キミにそう言われるなんて嬉しい限りだよ。あの子の事だから、階級思考の高いその学校で浮いてしまわないか心配してたけど…、やはりそこに入れて正解だったようだね。これからも頼むよ、咲哉君』
「わかりました。深君の事は任せて下さい、天原さん。…それでは失礼します」
陽も落ちた頃合の理事長室。
通話の終了した受話器を戻した咲哉は、一息吐いて背もたれに深く寄りかかった。
深が月城 に入る時、どうせだから黒崎家の人間と同室にしてくれ…と、天原さんに言われた時は本気なのかと驚いたけれど、あの人の事だ、それが一番深の成長に役立つと考えたのだろう。
今はまだその選択が正解だったかはどうかはわからないが、とりあえず大きな問題は起きていないようだ。
……深……。
目を閉じて思い出すのは、不機嫌な表情を浮かべている最愛の従兄弟の姿。
『ボクねー、大きくなったら咲哉兄ちゃんと結婚するー!』
そんな事を言っていた時期もあったのに、いつの間にか自分の手から離れてしまった。
天原さんに頼まれたから大人しく見守っているものの、誰かと親しげに話しているのを見るたびに、心の奥が冷たくなるのを感じる。
愛しさと憎しみが紙一重と言うのは、まさにこんな状況を言うのだろうな…。
フッと自嘲気味に笑いを零すと閉じていた瞼を開き、目の前に置かれている今日中に片付けておかなければならない書類に手を伸ばした。
† † † †
「ん~…、気持ちいいなー」
少しだけ空と近くなれた気がする場所。屋上。
雲一つない晴れた青空と、涼しさを運んでくる心地よい風。
夏がくる一歩手前の清々しい空気に、自然と口元が弛む。
本来ならば授業中という時間帯のせいか、誰もいないところがまた何とも言えない開放感を与えてくれる。
みんな頑張って勉強してるんだろうな~…なんて、今ここにいる自分が少しだけ得をした気分になれる。
フェンス越しに見える景色を前に大きく伸びをしてから周囲を見渡すと、給水棟の横に居心地の良さそうな日陰ができている場所が目に入った。
そろそろ太陽の光がジリジリとした熱を放出し始めてくるだろう時間、暇をつぶすにはまさにうってつけの場所。
考えるまでもなく、鼻歌でも歌いそうな軽い足取りでそこに向かった。
…ここで寝たら夜まで起きられないかも。
座りこんだ途端、吹き抜ける風のあまりの心地良さにそんな危機感すら抱く。が、
まぁとりあえずなるようになるだろ。
持ち前のポジティブ思考がこんなところで発揮されてしまった。
そのまま目を閉じ、ゆるやかに忍び寄ってくる睡魔に身を任せようと体の力を抜いた時、
「サボりかな?天原深君」
「!?」
あまりにビックリしすぎて心臓が跳ね上がった。
驚きに見開いた視界に映ったのは、足、そして腰、胴体。徐々に視線を上げた先には、
「…なんで、こんな時間に…」
「それはキミも同じなんじゃないの?」
可笑しそうに笑う鷹宮さんがいた。
暫しの間呆然と相手を見上げるも、後輩である自分が座ったままでいるのは失礼だという事に気が付いて、慌てて腰を浮かせた。
けれど、それに気がついた鷹宮さんにすぐ手で制される。
え?と思ったのも束の間、鷹宮さんも隣に座りこんだのを見てその意図がわかり、またさっきと同じように座りなおした。
それにしても、どうしてこんなところに鷹宮さんが?
疑問と共にチラリと横へ視線を向けた瞬間、立てた片膝に軽く手をかけて座る鷹宮さんの姿に思わず見惚れてしまった俺を誰が責めよう。
動作のひとつひとつや、その時々にとる体勢が、相変わらず洗練されていて格好良い。
「それで?こんな時間に一人で屋上にいるなんて、不良君を目指してるのかなキミは」
中身のおかしさが外見に表れないんだ…、なんて感心しながらボーっと見つめている最中にそんな事を言われて、ふと気が付いた。
そういえばこの人、生徒会長だった。
サボリだと思われたら教室に強制送還されるかも。
慌てて首を左右に振る。
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