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学園生活25

自販機のディスプレイを見て、何を買おうか迷っている素振りを見せる。 この胸の内にあるモヤモヤを言ってしまいたい気もあるけれど、自分自身ですらよくわかっていないこの感情を、うまく言葉にする事はできない。 「何もないよ、薫の気のせいだ。…ちょうどいいから何か奢るよ、何飲みたい?」 そう言って隣に立つ薫に笑いかけた。それなのに、薫の顔がまた泣きそうにクシャッと歪む。 「…薫…?」 「そんな顔して…笑わないでよ」 「そんな顔って…、笑顔が変って微妙だよな」 「ふざけないでっ!」 冗談で誤魔化そうとした俺の考えは、見事に砕かれてしまった。 見つめてくる大きな瞳があまりに真剣で、さすがにこれ以上嘘を貫き通す事は難しいという事を悟る。 だからと言ってどうすればいいのかわからなくて戸惑っていると、意外に力強い手に腕を掴まれて強制的にロビーに並んでいる長椅子まで連れて行かれてしまった。 どうやらじっくりと話を聞くつもりらしい薫に、諦めの溜息を吐きだす。 こうなったら、話してしまった方がスッキリするかもしれない…。 大人しく長椅子に座ると、厳しい顔つきをしたままの薫も隣に座る。 俺が話すのを聞くまでは一言も口を挟まないぞ、というオーラが溢れている薫に、さっきの出来事をポツリポツリと話しはじめた。 「………って、俺がそう言ったら秋が『深には関係ない。家の事には触れてほしくない』って…」 「…うん。残念だけど、僕達が今まで見てきた黒崎君はそういう人だよ。でも、彼の立場上しょうがない事だと思う。確かに、全ての人に優しく対応はしてるけど、あれってそれ以上内側に踏み込ませない為の一種の壁だよね」 秋の言動も俺の思いも全て語り終わったあと、申し訳無さそうな顔をした薫から返ってきたその言葉に、秋のあの優しさが…あの親しさが本当に上辺だけだったんだと思い知らされた。 『関わってほしくない』 あれが秋の本音。 親しくなれそうだと思っていたのは俺だけだった。 そして、北原の言っていた事は本当だったんだ。 俺の独りよがりだったのはわかったけど、やっぱり傷つくものは傷つく。 裏切られたような気持ちになってる俺が勝手だと理性では理解できても、感情がついてこない。 「…ね、ねぇ、深くん。一緒に夕飯食べようよ!きっと、ご飯食べれば少しは気分も変わるだろうしっ、ね?」 俺の落ち込みようがそんなに酷かったのか、慌てた様子で立ち上がった薫に、グイグイと腕を引っ張られる。 もともと無かった食欲が一気に失せて、とても何かを食べる気分じゃなかったから断ったけれど、それでも精一杯の元気な口調で必死に説得してくる薫の熱意に折れて、腕を引っ張られるままに食堂へ向かった。 「今日は深君の好きな物たくさん食べてね!」 いつもは絶対に文句を言ってくるはずの野菜中心のメニューを選んで持ってきてくれた薫の気遣いが嬉しくて、それらを無理やりにでも口に運ぶ。 でも、いつもは美味しいはずの食事が、まるで砂を噛んでいるように味気なく感じられた。 side:黒崎  一方、呼び出しに応じて家に戻る途中の秋は、車の中で先程の深とのやりとりを思い出して微かに瞳を険しくした。 あまり周りの噂を気にしないはずの深だからこそ、自分が言わなければ黒崎家の事に気がつかないと思っていたのに、…いつの間に…。 できる限り、黒崎家に関する全ての事に関わらせないようにと…、まるで箱入り娘を大切にする父親のように、家の権力やそれに付随するしがらみから遠ざけようと思っていたのに、やはりこの学園にいる以上、それは無理だったようだ。 黒崎の名に引き寄せられる醜い争いや妬み。 そんな有象無象に絶対に関わらせたくないという願いは、叶えられないのだろうか。 ただでさえ、自分と同室になった事で影でコソコソ言われてしまっているのに…。 『あの…黒崎くん』 『何?』 『今までずっと1人部屋だったのに、突然同室者が来るなんて大変だね』 『そうでもないけど?みんなだって2人部屋なんだし、同じだよ』 『黒崎君は僕達とは違うよ!…それに僕、噂を聞いたんだ…』 『……噂?』 『黒崎君と同室になった子、黒崎グループとのコネを持ちたいからって、賄賂を渡してまで理事長にお願いしたって…』 『………』 先日、たいして仲良くもない顔見知り程度のクラスメイトと話した内容が頭をよぎった。 あんな噂、嘘に決まっている。 今日まで一緒に生活してみて、深がそんな人間ではない事は、誰よりも俺がわかっている。 でも実際、そんな噂を流している人間がいるという事は、それだけ深に妬みの感情が向かってしまっているという事なんだろう。 自分が原因で深が悪く言われるなんて、腹立たしさを通り越して、ただただ虚しい…。 こうなったら、俺が絶対に深を守る。 窓の外を流れる景色を見つめながらそう決心した時、運転席から声がかかった。 「秋様。そろそろ到着致します」 思いのほか自分の考えに没頭し過ぎていたようで、気付けば、見ていた景色が馴染の深いものに変わっていた。 この分だと、あと数分で家に着くだろう。 短く溜息を吐くと、先程までの物憂げな表情をキレイさっぱりと消しさり、今から始まる出来事への臨戦体勢に入るべく意識を切り替えた。 side:黒崎end

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