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学園生活29
なんか、今日は色々な事が起きた気が…。
いつものように、寮部屋のリビングにあるソファに座ってクッションを抱えながら、今日起きた出来事を思い出す。
その中でも一番問題だったのは、夏川先輩の命令発言。
いまだに意味がわからない。何か勘違いしているんじゃないのか、あの先輩は。
悩みながら時計に目を向けると、20時ちょうどを示していた。
…そろそろだな。いくら遅くなるといっても、さすがにもう帰ってくるだろう。
そんな風に思った瞬間、カチャリと扉の開く音が聞こえた。秋だ。
見事なタイミングで戻ってきた同室者に、俺って良い勘してる…なんて笑みが浮かぶ。
リビングへ入ってくるだろう相手を迎えようと振り向いた時、壁に邪魔されて見えない扉付近から、秋と誰かの会話が聞こえてきた。
「今日は本当にお疲れ様。これで少しは黒崎君も休めるんじゃない?」
「あぁ、北原もお疲れ様。お互いにやっと時間が空くな」
「…うん…」
「どうした?嬉しくない?」
「…だって、委員会がなければ黒崎君とあまり会えなくなるから…」
「そんな事ないよ。いつでも会えるだろ?」
「でも、用もないのに話しかけたら黒崎君に迷惑だし…」
「別にそんな事はない」
「本当に?…それなら良かった。…それじゃ、おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
…北原…。
俺にあんな事を言ってくるだけあって、秋とは本当に仲が良いみたいだ。
せっかく秋が帰ってきたというのに、なんだかモヤモヤする。
「ただいま」
その声にハッと顔を上げると、いつの間にか秋の姿がリビングにある。
北原は大人しく帰ったんだ…。
部屋にまで入って来なかったことにホッとする。
「深はもうご飯食べた?」
秋が、リビング奥の壁際に設置されている机にバッグを置きながら問い掛けてきた。
そこで自分がまだ夕食をとってない事に気がついたけど、さっきの秋と北原のやりとりが心に引っかかって、食べる気が湧いてこない。
「まだだけど、お腹空いてないから今日はいい」
そう答えた瞬間、こっちを振り向いた秋が窘めるように目を細めた。
「ダメだよそんなの。俺が心配になる。…ほら、食堂はまだやってるから行こう」
本気で心配している様子に心が動かされる。
でも、誰に対しても同じで、本当の自分には関わってほしくないと思っていて、他人に気付かれないように壁を築いて…。
…そして、本当は俺の事を迷惑に思って…る…?
それなら、上辺だけの心配なんて、される方が空しい。まるで義務感のようで…。
色々な情報が入りこみすぎて、何を信じれば良いかわからなくなってくる。
秋の視線から逃れるように顔を俯かせ、腕に抱いていたクッションをギュッと強く抱きしめる。
「…もう、いいよ…。気を使うの、疲れるだろ?秋に無理矢理近づこうとか思ってないし、裏で嫌われるくらいならハッキリそう言ってくれた方がいい。俺の事、気にする振りもしなくていいから」
「…深?…何言って…」
「もうやめよう…。秋の行動とか言動が本音なのか作ったものなのか…って、考えることに疲れた…。それに、秋には信頼してる北原がいるんだから、俺にどう思われても構わないだろ?壁とか作らなくても、踏み込まないからもう放っておけよ」
俯いた視線の端に、固まったように微動だにしない秋の足元が映った。
言葉にしてから、言い過ぎたって自分でも思う。
けれど、もう止められなくて…。
気配で、秋が何かを言おうとしたのを感じたけれど、これ以上わけのわからない事になりたくなくて、クッションをソファの上に放り投げると勢いよく立ち上がって部屋を飛び出した。
side:黒崎
勢いよく飛び出していった深の姿が扉の向こうに消えるまで、机の前に立ち尽くしたまま1ミリも動けなかった。
いつもと変わらないやりとりだったはずなのに…、何がそんなに深を怒らせたのかがわからない。
…怒らせた?…いや、あれは傷ついていたようにも見えた…。
拒否の言葉を投げつけられた俺よりも、言った本人の方が泣きそうな顔をしていたのは、気のせいではないはず。
そして、そんな顔をさせてしまったのは間違いなく……、
「…俺、だな…」
息を吐き出すと同時に呟いた声が、静かな室内に散って消える。
自然と握り締めていた拳の中、爪が手の平に刺さるのを感じて、その手を緩めた。
本当に慌てると、人間は頭が働かなくなって動けなくなるものなんだ…。
そんな事を冷静に頭の片隅で思いながらも、まったく体が動かない自分に溜息が零れた。
side:黒崎end
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