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学園生活40
† † † †
そろそろ梅雨も明けそうな気配がする晴天。
陽の下は結構な暑さになっているだろう事が予測される中、次の授業である理科室に向かう為に真藤達と渡り廊下を歩いている時、その人は現れた。
「今からどこに行くのかな?愛しのお姫様は」
「…鷹宮さん…」
今から俺達が向かおうとしている特別棟から渡り廊下へ出てきた鷹宮さんが、いつもの調子で話しかけてきた。
立ち止まり、今のセリフの内のとある部分に対してどう返事をするべきか悩んでいるうちに、真藤と薫が挨拶を交わしだす。
なんとなく黙ってそのやりとりを見ていると、不意に強い視線を感じた。
鷹宮さんの後方、ちょうど特別棟から出てきた人物とガッツリ視線が絡み合う。
生徒会副会長の夏川桐生先輩。
この人は微妙に苦手だ…。
先日のやりとりを思い出して、無意識に眉を寄せてしまう。
でもそんな俺とは違い、当の本人は何事もなかったのように穏やかな表情で近づいてきた。
「京介~。なに後輩つかまえて遊んでんの?」
「うわ。夏川先輩まで!」
背後から鷹宮さんの肩に手をかけて現れた夏川先輩に気付いて、薫が驚きの声を上げている。
声に嬉しさが混じってるのは何故だ…。
ニコニコと笑っている薫。
そして鷹宮さんは、そんな夏川先輩をチラリと横目で見るとまたすぐにこっちに視線を戻してきた。
何故かその顔には、イヤ~な感じのするワザとらしいまでの笑みが浮かんでいる。
「なんですか、その笑いは」
「ん?いや、この前の深君の寝顔を思い出してニヤけただけだよ」
「…は?」
何を言ってるんだこの人は。
いくら記憶を遡っても、寝顔を見られるような場面には遭遇していない。
顔を引き攣らせて焦る俺を横に、薫は目をキラキラさせて好奇心を剥き出しにするし、真藤は眉間にシワを寄せてるし…。
夏川先輩に至っては、「オヤ?」なんてワザとらしく言いながら俺を見てニヤニヤ笑ってるし!
何かの誤解だってホントに…。
「あの、鷹宮さん。適当な事言わないで下さい。誤解が誤解を生んでます」
「誤解じゃなくて本当の事なんだけど」
「え?」
いつ?
鷹宮さんの前で寝た事なんて……。
そこまで考えた時、ある1つの出来事が脳裏に浮上した。
「……あ……もしかして…」
思い当たった事が1つ。
鷹宮さんの顔を見上げたら、「そうそう、その時だよ」なんて楽しそうに頷いている。
「なになに?!本当に会長と深君って一晩過ごしちゃったの?!」
「そこは誤解だ!
誰か薫にストッパーをつけてくれ…。
鷹宮さんの言った意味が理解できてドッと疲れが出てきたあげくに、薫の突っ走り具合に頭も痛くなってきた。
『今、誰か来てなかった?』
『…あぁ…、危険人物が約一名、ね』
つい最近、秋と交わした会話。
たぶん、俺がソファで寝てた時に部屋にいた危険人物っていうのが鷹宮さんだったんだろう。
「俺が部屋でうたた寝していた時に、鷹宮さんと秋が一緒に部屋に戻ってきたってだけの話だから」
抑揚のない声で淡々と薫に言った途端、目に見えて落ち込むってどういうことだ。いったい何を期待していたのか。
ジロリと睨みをいれてから夏川先輩を見ると、こっちはこっちで両肩を竦めて「やれやれ…」なんて溜息を吐いている。
むーかーつくー。
「……もう行かないと授業に遅れるので!これで失礼します!」
これ以上話してたらどんな事になるかわかったもんじゃない。
二人にキッパリと言いきってから、薫の襟首を掴んで問答無用で歩き出す。
真藤は絶対に着いてくるから気にしなくても大丈夫。
…なんて思っていたのに…。
「先輩。天原の立場をもう少し考えてやってもらえませんか?」
「ッ真藤!?」
すぐ後ろに着いてきていると思った真藤の声が鷹宮さん達の位置から聞こえて、驚いて振り返った。
俺の目に映ったのは、真剣な顔をして鷹宮さんを見ている真藤と、にこやかな笑みを浮かべている鷹宮さん。
そして、不機嫌そうな様子を見せている夏川先輩。
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