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学園生活41
「真藤、お前何言って…」
「天原は黙ってろ」
「……」
呼びかけに振り向いた鋭い眼差しに射抜かれて、それ以上何も言えなくなる。
「会長が天原に構うたびに、こいつが影で色々と文句を言われている事を、敏い貴方なら気付いているはずだ。自分の立場をわかっているなら、今までと同じように1人の人間に固執しない流儀を通して下さい。……もし、天原の事を本気で気に入っているなら、それくらい考えてくれませんか?」
厳しい口調で詰め寄る真藤を、穏やかに見つめている鷹宮さん。
言われた本人よりも、夏川先輩の方が今にも怒りだしそうな雰囲気だ。
暫く流れた沈黙のあと、鷹宮さんが何かを試すような挑戦的な眼差しで真藤に問いかけた。
「本気じゃないなら、周りを気にしないで好き勝手に近づいていいんだ?」
「本気じゃないなら、天原に関わる事自体をやめてもらいます」
「…真藤…」
いろいろと心配してくれていたのはわかっていたけど、まさかここまで本気で考えてくれているなんて思っていなかった。
それも、相手は生徒会長という権力者だ。下手をしたら真藤自身が生意気だと思われるかもしれないのに、その危険を顧みず意見するなんて…。
震えそうになる唇をギュッと噛みしめたところで、ポンポンと背中を優しく叩かれる。
隣を見ると薫が目元を和らげて頷き返してきた。
その瞳には“大丈夫だよ”と言いたげな光が浮かんでいる。
…まったく…この2人は…。
俺の友達だなんていうのがもったいないくらいだ。
胸の奥がふわりと暖かくなるのを感じながら、真藤の元へ足を戻した。
「真藤、ありがとう。でも、お前が先輩に睨まれる必要はないよ」
そう告げてから先輩達へ視線を向けると、何故か嬉しそうな鷹宮さんと、やはりまだ渋い表情をしている夏川先輩の姿が視界に入る。
鷹宮さんは、嬉しそうどころか俺が何を言うのか楽しみにしているようでもある。
口を開いた瞬間に授業開始のチャイムが鳴り響いたけど、誰もそこから動き出そうとしないのを見て、そのまま話しだした。
「鷹宮さんが俺のことを相手にしてくれるのは凄く嬉しいんですけど、でも、俺なんかに構うより、もっと他にいると思うんです。鷹宮さんに合う人が。だから、俺の事は気にせず放っておいて下さい」
…言ってしまった…。
先輩相手に生意気な事を言ってしまった恐れに、心臓がギューッと縮む。
でももう後には引けない。
そこでやはりと言うか案の定というか、さっきから顰めっ面をしていた夏川先輩が一歩踏み出して俺達に近づいた。
何か言おうとしたらしく口を開きかけたところで、鷹宮さんが片手を上げてそれを制する。
そんな鷹宮さんに不満そうな視線を向けた夏川先輩だけど、鷹宮さんが静かに首を左右に振ったのを見て、短く溜息を吐いて引き下がった。
そういうのを見ると、夏川先輩は本当に鷹宮さんを信頼しているんだな…って思う。鷹宮さんが無意味な事をするはずがないと信じているからこそ、何も言わずに引き下がる。
こういうのを本当の親友というのかもしれない。
「…キミ達の言いたい事はよくわかったよ。確かに、人の目に触れるところで少々軽率な行動をしていた自覚はあるからね」
珍しく苦笑いを浮かべて話す鷹宮さんに、こっちも緊張がほどけていくのを感じる。
けれど、少し考える様子を見せた後、不意に表情が真剣なものに変わったのを見て息を飲んだ。
常に柔らかな笑みを浮かべているこの人がこういう表情をすると、否が応にも緊張してしまう。
「だからと言って、深君との関わりを絶つ気はさらさら無いよ。それどころか今だって足りないくらいだと思ってる。でも、2人の言い分はよくわかった。これからはやり方を変える事にするよ。だから安心して。……さて、そろそろ行かないと完全なるサボりになってしまうね」
どう変えるつもりなのか聞きたいのは山々だけど、鷹宮さんが言う通り、もうそろそろ授業に行かないとまずい気がする。
真藤を見ると、やはり同じ事を思ったのか頷き返された。
「わかりました。生意気な事を言ってすみませんでした。失礼します」
俺と真藤が頭を下げて歩き出すと、薫も少し離れた所から先輩達に頭を下げたのが視界に入る。
そして、3人揃って特別棟に向かって歩き出した。
side:鷹宮
「京介」
「ん?」
「いいのか?あんなこと言って」
「いいんだよ。僕は深君を苦しめたいわけじゃないし、僕には僕のやり方があるからね。まぁ見ててよ」
「へぇ~、さすが生徒会長様。自信ありげな発言」
さっきまでの不機嫌そうな表情を消して楽しそうに笑う夏川。
それに対して肩を竦めた鷹宮は、深達の消えた特別棟の入口に一度視線を向け、夏川の背中を叩いて「行こう」と一声かけると、その場から歩き出した。
授業が始まっているのにも関わらず、焦る素振りもなく優雅にゆっくりと。
そんな鷹宮を見て「さすが京介、大物」なんて呟いている夏川本人も同類だと気付いているのかいないのか。
特別棟に入った瞬間走り出した深達とは大違いである。
side:鷹宮end
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