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学園生活50
「2人とも、夏休みは何するの?」
教室に戻り、HRが終わると同時に薫が振り向いて話しかけてきた。
「俺は、親父の仕事と兄貴の仕事の手伝い、だな」
横向きに椅子に座ってこっちを向いている真藤が淡々と答える。
仕事の手伝いってなんだろう?
「そういえば、今まで聞いた事なかったな。真藤の家って何やってんの?」
「俺の家は、代々続いている弁護士一家」
「…あぁ…納得…」
思わず、しみじみと頷いてしまう。
真藤の持っている冷静でお堅い雰囲気は、弁護士一家と言われて納得できるまさにそのもの。
…にしても、弁護士の手伝いをする高校生なんてコイツくらいじゃないか?
感心しながら真藤を見ていると、薫が軽く「頑張れ~」なんて手を振って応援している。
「薫は?夏休み何してるんだ?」
「僕?…ん~、僕はね~、お医者さんごっこ!」
「へぇ~、薫はお医者さんごっ……………は!?」
危ない…、本気で危ない…。
前からなんとなく謎の部分が見え隠れしていたけど、まさか変態だったなんて…。
ありえない言葉に顔を引きつらせて薫を凝視してしまった。
「…ック…アハハ!。宮本、お前なんか誤解されてるぞ」
俺の反応を見て真藤が笑っている。
誤解…?
改めて薫を見ると、本人はにこやかに「そんな顔して見ないでよ~」なんて言っている。
どういう事?
薫からまともな回答が来ない事はわかっているから、真藤にその答えを求める。
「宮本家は、大きな総合病院を何ヶ所か運営してるんだよ。コイツが言ってるお医者さんごっこってのは、俺と同じく家の手伝いって事。資格が無くても出来る範囲のお手伝いってとこだろ」
「…あぁ…そういうこと。頼むから普通に言えよ、薫のこと恐ろしく誤解するとこだった」
真藤の説明を聞いて思いっきり脱力してしまった。
当の本人は、「普通に言ったのに~」なんて口を尖らせて不服そうにしているけど、絶対に普通じゃなかった!
っていうか、薫が「お医者さんごっこ」とか言っても、普段の言動から冗談にとれない部分があるからこそ恐ろしい。
いまだに不審な眼差しで薫を見ていると、今度は真藤が問いかけてきた。
「…で?天原の夏休みは?」
「俺?…俺は、まぁ、あれだ…、お前らと同じようなものかな」
あまり言いたくない答えだった為に誤魔化すように曖昧に返した、のが悪いんだろうな…。真藤の目が僅かに細められた。
「な…に…、その顔」
「いや、別に」
もともと鋭利で知的な顔をしているせいで、黙って目を細めると怖いんだよ真藤は。
別に…とか言ってるわりには、機嫌が悪そうに見える。
俺から視線を逸らす真藤と、それをジーッと見つめる俺。
少しだけ固まったそんな空気が、次の薫の一言で崩れ去った。
「あ~…、真藤君拗ねてるんだ~」
「はい…?」
拗ねてるって、…真藤が?!ありえないだろ!
なかば信じられない思いで真藤を見ると、本人が横目でチラリとこっちを見て、
「拗ねて悪いか」
言い放った。
俺が口を開いたまま茫然したのは言うまでもない。
真藤が拗ねるとかそれ自体が驚きだし、そもそも無表情で目を細められたら誰だって怒ってるとしか思わないだろ。
「拗ねるなら、もっとこう可愛…、……スミマセン、もう何も言いません…」
拗ねるならもっと可愛く拗ねろ!と言うはずが、途中から突き刺さった真藤の視線であえなく撃沈。
なんで俺の周りは、迫力がある奴ばかりなんだろう。
「まぁ、天原が言いたくないならいい。…とにかく、学校にいる時と違ってすぐに助けに行けないんだから、変な事には関わるなよ?」
「俺がいつ変な事に関わったんだよ」
「いつもだよ~、自覚ないの~?」
「……」
全く悪気のない顔で言われると、さすがにちょっとヘコむ。
2人とも絶対に俺の事を誤解してる気がするけど、何かと迷惑をかけているのも事実だから否定もできない。
ムスッとして2人から視線を逸らす。
そして、逸らした先にあった壁に掛けられた時計。
それを見た瞬間。
「…忘れてた…」
咲哉に呼び出されていた事を…。
拗ねていたのも忘れて勢いよく椅子から立ちあがる俺に驚いたのか、真藤と薫が驚いた顔でこっちを見上げた。
「し…深君、落ち着いて」
「暴力では何も解決しないぞ」
「違うから!」
どういう勘違いの仕方だよ!いったい俺はどう思われているんだ!?
毛を逆立てた猫のような形相で二人を見ると、何故かその顔にはニヤニヤとした笑みが浮かんでいる。
もてあそばれてるな…うん…。
どんな時でもブレない態度に一気に脱力してしまった。
「とにかく!俺は今から用事があるから帰る。また休み明けにな」
これ以上ここにいたら、どんな風に弄られるかわかったものじゃない。
待たせると機嫌の悪くなる咲哉にも会いに行かないといけないし。
その二つを解消する方法はただ一つ。
ここを出て理事長室に行く。それだ。
慌ただしく歩きだし、片手を上げて2人に挨拶すると、
「またね~」
「変な事に首を突っ込むなよ」
それぞれから言葉が返ってきた。
若干反論したい部分があったけど、取りあえず頷いて教室を後にした。
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