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学園生活53
これ以上好きにされたくなくて、咲哉の手首を掴んでなんとか引きはがそうとしていると、不意に咲哉の顔が横に動いた。
な…に…?
「…ッぁ…っ…」
耳朶を襲った濡れる熱と食まれる感触。
咲哉が何をしたかわかったと同時、首筋から背筋に向かって痺れるような甘い痺れが走り、自分の意志とは関係なく体がビクッと揺れた。
「皆の前で俺にエスコートされるか、それともここで事実上俺のモノとなるか、…選ばせてやる」
「……ッ……、ぅ……」
言いながらも、咲哉の舌は耳朶から首筋を伝い徐々に下がって鎖骨に辿りつき、その手はいつの間にかシャツの裾から入りこんで胸元まで届いていた。
手が直接肌を撫でるたび、舌が鎖骨を舐めるたび、与えられる小さなむず痒さに声が零れて身体は反応を示す。
男が快楽に弱いというのは聞いた事があるけど、今の自分でそれを実感した。
優しく甘い心地良さに、抵抗を忘れてしまいそうになる。
「どうした?返事がないなら俺のしたいようにするが、いいのか?」
「…ヤ…っ…、も……離…せ…。…ぁ…うッ…」
咲哉の手が胸を撫でさすり、緩く突起を摘んだかと思えばギュッと押しつぶす。
そんな手遊びを繰り返され、まともな言葉を発せられない。
おまけに、膝の間に入りこんでいた咲哉の足がグッと押しつけられ、擦り付けるようにゆったりと腰を動かす。
布越しとはいえ、咲哉自身の張り詰めた欲望が俺自身を擦り上げて、否が応でも快楽を引きずり出されてしまう。
「…わ…かったから…っ、…エスコートを頼む……から、もう…離せ…っ…!」
下半身に与えられる甘い刺激に、我を忘れて自分の腰を押し付けてしまいそうになるのをなんとか堪えて言い放った。
そう返事をするしか、この状況から逃れる術が見つからない。
すると次の瞬間、いともあっさりと咲哉が身を起こした。
まるで何事もなかったかのように、本当にあっさりと…。
「最初から大人しく承諾していれば、こんな事にはならなかったはずなんだがな。…それとも、実はもっと触ってほしくて焦らしてたのか?」
そう言って、俺を見下ろしながらニヤリと笑う。
……この野郎…。
いまだ身体に残る余韻と精神的疲労からグッタリとする体をなんとか起こして、咲哉を睨んだ。
「ほんと最悪だから」
「俺の手でよければ貸してやろうか?」
咲哉の視線がチラリと向けられた先。中途半端に反応を示している下半身が、制服の上からでも微かにわかる程度に張り詰めている状態を暗に言われて、羞恥に顔が熱くなる。
お前だってさっきまでは同じ状態だっただろ!
…って言いたいけれど、精神力の強さの違いからか、咲哉のそれはすでに熱から冷めているようだった。
自分がまだまだ子供だと見せつけられているようで、悔しいしムカつく。
唇を噛み締めながら、乗っていたデスクから降り立つ。
その瞬間に少しだけ足元がよろめいたけど、意地で体勢を立て直した。
「余計なお世話だ」
意識を逸らしていれば、身体の熱も自然と治まるはず。
口元から零れそうになる吐息をグッと堪えて歩き出した。
「…本当に強情だな、お前は…」
背後で、呆れたような…楽しんでいるような、どっちとも取れるような口調で咲哉が呟いている。
それを無視して扉前で立ち止まり、乱れた制服を整えてから理事長室を後にした。
咲哉のやつ何考えてるんだよっ。やる事が段々エスカレートしてないか!?
理事長室から出たあと、帰省の準備をする為に寮に向かって歩きながら、心の中で咲哉に対する文句をひたすら言い続ける。
今までは、されてもキス止まりだったのに、何を考えているのかさっぱりわからない。
欲求不満になるほど相手に不自由しているわけじゃないだろうし。
逆に、「寄ってくるな」と簡単に切り捨てる事ができるほどモテる奴なのに、どうして…。
いくら頭を悩ませて考えても答えは出ない。
寮棟に足を踏み入れた瞬間、ハァ…っと深い溜息が零れ出た。
…もういいや、深く考えるのはやめよう…。どうせいつもの嫌がらせだ。
考えを振り払うように一度だけ頭を横に振り、すれ違う他の生徒達が大きめのバッグやスーツケースを手にして帰っていく中、ひどい疲れを感じながらも辿りついた自室の扉を開けた。
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