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学園生活54

「おかえり」 「た…だいま。珍しく早いな」 リビングに入ると、すでに戻ってきていた秋が、手に持っていた大きめのバッグをソファの横におろしたところだった。 一ヶ月の長期休みに入るから、どうしてもみんな荷物は多くなるよな。 秋のバッグを見ながら、自分も同じように身の回りの物を持ち出さなければいけない事を考えて憂鬱な気分になる。 家に戻れば代用品があるとわかっていても、靴とか服とか日用品とかはやっぱり使い慣れたものがいい。 「深はもう荷物をまとめた?」 「ん~…、ある程度はまとめた。…秋はもう帰るの?」 「まだ帰らないよ」 「もしかして、終業式の日にまで委員会の仕事があるのか?」 秋と会話をしながら、寝室から荷物の詰まったバッグを持ってきて、リビングにある自分の机に置く。 視線を向けずに、「大変だな」なんて労わりの言葉をかけつつ机周りの小物をバッグに詰め込んでいると、秋の微かな笑い声が耳に入ってきた。 手を止めて振り向くと、いつの間にかソファに座っていた秋が苦笑しながら俺を見て、 「違うよ。暫く会えなくなって寂しいから、せめて部屋を出るのは深と一緒に…って思って待ってただけ」 なんて言ったせいで、手に持っていた夏休み課題用の参考書をボトっと床に落としてしまった。 動揺した事を隠したくて、何事もなかったかのようにそれを拾ってバッグに入れる。 でも、背後で秋が思いっきり笑い出した事で、一気に顔が熱くなった。 お前が変な事言うからだろ! 笑いながら咳き込んでいる秋の事は放っておいて、とにかくバッグに必要な物を詰めこんだ。 あれもこれも…なんて入れていたせいで、全てを詰めこみ終わった後のバッグは限界ギリギリまで膨張している。 凶器レベルだな…。 我ながら感心してしまう。 それを持ち上げると想像以上の重さで、せっかく詰めこんだにも関わらず手ぶらで帰りたくなってしまったのは仕方がない。 「終わった?」 「あぁ…、なんとか」 「それでは、名残惜しいけど行きますか」 「たった一ヶ月だろ」 バッグを肩に掛けて振り向くと、それを見ていたらしい秋もバッグを持ってソファから立ち上がった。 本当に名残惜しいと思ってるのかどうか怪しいくら爽やかな笑みを浮かべている秋を、扉へ向かうように促してから一緒に歩き出す。 そして、2人揃って廊下に出たあと、秋のカードキーで扉の鍵をかけた。 カチャリ 小さく鳴ったその音が、どことなく物悲しい気分にさせる。たった一ヶ月だって言ったのは自分なのに…。 なんの寂しさかわからない妙な気分でボーっとドアを眺めていると、額にコツンと何かが当てられた。 どうやら秋の拳で軽く突かれたらしい。 「…なに…」 「そんな顔されると拉致したくなるからやめてくれるかな」 「…は!?」 普段が有言実行な分だけ、本当にやりそうで怖い。 思わず一歩後退ったら笑われたから冗談なんだろうけど、心臓に悪い。 「それじゃ、行こうか」 「あぁ…」 夏休み、か…。 本当は嬉しいはずの夏休みを全然嬉しく思えないのは、パーティーの事があるからか、それとも…。 ここから離れがたいと思う自分に戸惑いを感じながら、先に歩き出した秋を追って足を踏み出した。

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