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夏休み16

そんな感じで次々とバッグから小物を出して片付けていると、あらかた片付いた頃にはお昼を過ぎてしまっていた。 どうりでお腹が減るわけだ。 最後に、空になったバッグをクローゼットの奥に入れて全て完了。 「よしっ」 一人で満足感に浸り、特に汚れてもいない手の埃を払い落すように両手を叩き合わせながらリビングに戻った。 けれど、空腹感を感じてしまえばゆっくりくつろぐ気持ちも消え失せる。 食堂にでも行くか。 まずは空腹感を満たそうと、ポケットにサイフがある事を確かめて、そのままリビングを通り抜けて扉へ向かった。 その時、ちょうどいいタイミングで部屋のチャイムが“リンゴーン、リンゴーン”と鳴り響く。 俺が戻ってきている事を知っているのはさっき会った3人だけ。という事は…。 この向こう側にいる相手を予測しながら扉を開けると、案の上そこにはさっき会ったばかりの3人の姿があった。 「片付けはもう終わったか?昼、食いに行くぞ」 「もぉ~、離してよ~!」 何故かいまだに薫の襟首を掴んだままの真藤が、暴れる薫をものともせずに立っている。 その2人の後ろには、ハラハラした顔の前嶋。 たぶんあれは、薫が怒ったときの八つ当たりが自分に来る事を恐れているとみた。 猛獣使い(真藤)と、猛獣(薫)と、オモチャ(前嶋) 自然とそんな図式が頭に浮かんで、顔がにやける。 「…なに笑ってんの…」 「いや、別に」 俺の笑いに気付いたのか、前嶋が恨みがましそうに聞いてきた。 それがあまりにもヘタレっぽくて、なおさら笑いが込み上げる。 まずい、ツボに嵌りそう。 なんとか笑いを噛み殺しながら廊下へ出ると、真藤が先に歩き出す。 真藤が歩けば必然的に掴まれている薫も歩く事になるわけで…。 なんとも妙な光景ながらも、とりあえず腹を満たす事が出来る嬉しさに弾む足取りで食堂へ向かった。 足を踏み入れた先の食堂は、想像以上に人が多かった。 大部分の生徒は夜に戻ってくるかと思っていたけど、早く帰寮して早く片付けを終えて、その後のんびりする時間が欲しい…って考えるのは、皆同じって事か。 食堂内を見回してそんな事を思っていると、腕にグイっと何かの圧力がかかった。 何事かと視線を向けた先には、腕を引っ張る薫の姿。 真藤の拘束から解放されたんだな…。 「ねぇねぇ、早く選んで席に着こうよ~。僕お腹空いた~」 「はいはい。もう決まったよ、…って前嶋は?」 気付けば、さっきまで横にいたはずの前嶋の姿だけがない。 真藤は、少し先のほうで既に選んだ食事を受け取っている。 その受け取っている食事の品数があまりに多くて内心驚きながらも、前嶋はどこに行ったのかと周りをキョロキョロしていると、薫が食堂のテーブルの一角を指で差した。 そこには、場所取りをしている前嶋の姿が…。 …なるほど…。真藤の食事量が増えたわけじゃなくて、あれには前嶋の分も含まれているのか。 合致した2つの符号に納得しながら選んだ食事を受け取り、薫と並んで前嶋の待つテーブルに向かった。 「悪いな、前嶋」 「いやいや、全然問題ないよ。天原の為なら例え火の中水の中!」 「…お前って絶対に自爆で死ぬタイプだな」 その余計な一言でいつも痛い目を見ているのに懲りない奴だ…と溜息混じりに呟く俺に、隣で真藤がクッと笑い声を上げる。 笑ったって事は、たぶん真藤も同じような事を思っていたのだろう。 何はともあれ、四人とも食べ盛りの高校生男子。 食べ始めれば凄い勢いで皿が空になっていく。それでも器用な事に会話は止まらない。 「みんなは夏休み何か面白い事あった?」 「え~?俺は普通に地元の友達と遊んだり親の実家に行ったりしてた。…そういう薫ちゃんは何してたの?」 「僕?僕は前嶋君みたいに平凡で地味な夏休みじゃなかったな~」 「平凡で地味な夏休みで悪かったな!」 この2人はお笑いコンビか。 食べていたカルボナーラを噴きだしそうになって慌てて飲み込んだ。 仲が悪そうに見えて、実は仲が良いのだろうと思える2人。見ていて飽きない。 「真藤君は~?」 「ん?…俺はたいして面白い事はなかったな。あると言えば、親父が国際弁護人としてロスに行かなきゃならなくなったから、俺も着いて行ったって事くらいか」 淡々と言ってるけど、その内容は普通じゃない気がする。相変わらずだな真藤は…。 思わず食事する手を止めて隣をまじまじと見てしまった。

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