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学園生活Ⅱ-6
その日の夜。
いつものように、薫と真藤と一緒に食堂で夕食を食べていた時、少しだけおかしな出来事があった。
何がおかしい…とはハッキリ言えないけれど、何かがおかしい。
あえて言うとするならば、周囲の俺に対する視線や空気?
夏休み前までは、北原が周囲に何かを言い回っていたせいで、「関わり合いになりたくない」とか「いい気になっててムカツク」などなど、色々な意味で俺に近づく人間は少なかった。
それなのに、今日は何故か見知らぬ相手が自ら笑顔で挨拶をしてくる。
…それも何人も…。
これにはさすがに薫も真藤も異変を感じ取ったらしく、薄気味悪そうな表情を浮かべていた。
といっても、真藤の顔は相変わらず無表情だったけれど、雰囲気がそれを物語っていた。
「意味がわからない…」
ロビーヘ向かう廊下を歩きながら、食堂での事を思い出して首を傾げ、一人でブツブツと呟く。
好意的に挨拶をしてくれるのは嬉しいけれど、手の平を返したような変貌っぷりが落ち着かない。
本当になんなんだ。
そして辿り着いた目的地。談笑できるように自販機や長椅子が設置されているにも関わらず、何故かいつも人気 が無いこの場所。
たぶん皆、こんな所にいるよりも居心地の良い自室にいる方がいいのだろう。
でも、今日はそんなロビーに珍しく人の気配があった。
常に空いている観音開きの大きな扉から入ろうとした瞬間、中の様子に気が付いてすぐさま足を止める。
部屋に戻る前に自販機で何か飲み物を買っていこうと思ったからここに来たけど、…来なければ良かったかも…。
半ば後悔を呼び起すような、見たくない光景。
「あ、たまには僕に奢らせてよ。今日は忙しかったでしょ?こんな時くらい僕にも何かさせて」
「大丈夫だよ。俺よりも北原の方が大変だっただろ?…いつも悪いな、手伝ってもらって」
「そんな!僕は黒崎君の役に立てれば、それだけで嬉しいから」
頬を染めた北原が俯いたと同時に、自然と足が動いてロビーの入り口から遠ざかる。
秋と北原の間に流れる親密な空気。
2人が親しいのは付き合いが長いんだから当たり前。
それに、秋と誰かが仲良く話してたって俺が何かを言う筋合いはないし、知り合いがたくさんいる人気者の秋が誰とも関わらないなんてありえない。
俺だって真藤達と一緒にいる事を思えば、普通にある光景だ。
それなのに、……何故かギリッと胸が苦しくなる。
秋が北原に優しくしている姿を見て、すごく嫌な気持ちになった。
相手が北原だからなのか、それとも別の誰かでもこうなるのか。わからない。
わからないけど、とにかく今はこの場にいたくなかった。
ロビー前から足早に去り、結局何も買わずにそのまま部屋に戻ると、気分を変えたくてすぐさま風呂に入った。
きっと秋は今日も戻りが遅くなる。
だから、戻ってくる前にベッドに入ってしまえば、顔を合わす事はないだろう。
いま秋に会ったら、絶対に嫌な態度を取ってしまう自分が想像つくだけに、いてもたってもいられない。
カラスの行水の如くシャワーを浴びると、まだ髪が乾ききっていないにも関わらず、モヤモヤした気持を抱えながら早々とベッドの中に潜り込んだ。
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