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学園生活Ⅱ-9

Side:鷹宮 深が出ていった後の生徒会室。 扉が閉じられ、完全にその気配がなくなった同時に、今まで浮かべていた穏やかな笑みを消した。 「気づいているのかなぁ、あの子は…、あと半年もしたら僕がいなくなる事に…」 またも机に頬杖を着き、短く溜息を洩らす。 卒業式の時に悲しんでもらえなかったら、自分は相当へこむだろう。 泣いてほしいとまでは言わない。けれど、寂しく思ってほしいと切に願う。 …いつの間にここまで本気になってしまったのか…。 今まで他人に執着した事がなかったのに、いったいどうした心境か、自分でも不思議だ。 そんな事を思ってボーっとしていると、ノックも無しに突然扉が開かれた。 さすがに驚いて頬杖から顔を上げる。けれど、開いた扉の向こうに見えた慣れ親しんだ人物の姿に、ホッと体の力を抜いた。 「なんだ、桐生か…。ノックぐらいしようよ」 「今更俺がノックするわけないだろ。…さっき曲がり角で天原の後ろ姿を見た気がしたんだけど…、来てたのか?」 「来てたよ、…僕が呼び出したんだけどね」 その返答に、扉前から動こうとしない桐生は呆れたような目を向けてきた。 「で、何も進展はなかったわけだ?天下の生徒会長様が情けないねぇ」 「強引に行っても逃げられるだけだよ。それは本意じゃない」 「…ったく…。どうせもう仕事は終わってるんだろ?早く飯に行くぞ」 「はいはい」 相変わらず強引な相手に適当に返事を返して椅子から立ちあがり、今日中に片付けなければいけない書類を手に持つと、部屋を出るべく机の前から歩き出した。 Side:鷹宮end 鷹宮さんとの変な時間を終えて生徒会室を出たあと、どこにも寄らず真っ直ぐ寮部屋に戻り、すぐさまリビングにある自分の机に向かった。 今日の数学の授業で出された課題は、見事に苦手な箇所だらけ。 鷹宮さんの前では何でもないように言ったけど、内心では手伝ってほしいくらいに切羽詰まっている。 椅子に座ってスクールバッグから取り出した教科書とノートを広げた途端、それだけで憂鬱になった。 「…ハァ…」 勉強自体は嫌いではない。けれど、苦手なものはある。いくらなんでも、苦手な物まで嬉々としてやるほど人間は出来ていない。 開いた教科書の上で、指に挟んだシャープペンをクルクル回してみる。 ハッキリ言って、まるでやる気がでない。 「真藤に助けてもらおうかなー」 「それは感心しないな」 「…ッ!?」 突然背後からかけられた声に驚いて、手からシャープペンを落としてしまった。 そしてそれは机の上を転がり、床に落ちる。 上半身を屈めて床に落ちたシャープペンに手を伸ばしたけれど、それよりも先に伸びてきた手に拾われてしまう。 声の主である秋がすぐ後ろに立っていた。 「…秋、いつの間に…」 「実は深よりも先に戻ってた。ベッドルームで荷物を片付けていたから、気付かなかくても仕方ないよ」 「そうだったんだ。悪い」 「別に深が謝る事じゃない。そもそも、深が戻ってきたのを知っておきながら声をかけなかったのは俺なんだから」 「それは、確かに」 同意した途端に軽く頭を小突かれて、思わず笑ってしまった。 「で?…何がわからないって?」 机の上に開かれた教科書とノートを見て、秋が身を乗り出してきた。 …乗り出してきたのはいい…。ただ、その体勢に少しだけ問題が…。 俺の左側の机の縁に左手を着き、右側から手元を覗き込んでくる。 どうなっているかというと、背後から秋に覆い被さられている状態になっているんだ。 位置的に、秋の声が耳元にダイレクトに響く。 「いや…あの…、自分でやるから大丈夫です」 「その割には全く進んでないみたいだけど?おまけに、真藤君に助けてもらうとか何とか言ってなかった?」 「…言…ってました」 秋の柔らかい声が耳に聞こえるたび、くすぐったさを感じる。 あげくに喉の奥の吐息だけで笑われ、空気の震えにビクッと肩が震えてしまった。 そんな俺の反応に気付いたのか、今度はハッキリと声に出して笑われる始末。情けない。 「…わかったよ。俺はまだ向こうで片付けなきゃならない物があるから、困ったら呼んで」 無言で大きく頷き返した俺に、机から手を離した秋が頭をグシャッと撫でてくる。 シャープペンを俺に渡してからベッドルームへ向かうその姿に、ホッと肩の力が抜けた。秋の無駄に色気のある行動は本当に心臓に悪い。 また背後から覗き込まれる事態に陥る前に課題を片付けてしまおうと、今度こそ本気で取り掛かる為にすぐさま参考書に手を伸ばした。

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