101 / 226

学園生活Ⅱ-11

†  †  †  † 真藤達に鷹宮さんの噂を聞いてから数日。 あの真相を確かめたくてしょうがない。 だからと言って本人に、「鷹宮さんってローゼンヌで役者やってるんですか?」なんて事は恐ろしすぎて聞けない。 でも気になる。 この葛藤を抱いて数日、”Kyo”の事が頭から離れない。 あの時に目を奪われた役者が鷹宮さんだったらどうしよう…。 なぜかドキドキする。 今日もまた放課後に生徒会室に呼び出され、今まさに、その扉の前に辿り着いたところだ。 でも、この前来た時にはなかった緊張感が、扉を開ける手の動きを鈍くする。 「今更、緊張も何もないのに…」 「緊張してるの?」 「…っ…!?」 扉のノブに手をかけたまま固まっている所に、背後からかけられた声。 この人…、中にいたんじゃなかったのか…。 振り向くと、すぐ真後ろでニコニコ笑いながら立っている鷹宮さんがいた。 「入らないの?」 「…入ります」 なかば、笑顔に気圧されるように扉を開けて生徒会室に足を踏み入れる。 続いて鷹宮さんも入ってきた。 「はい、それじゃ今日はそこに座って」 示されたのは、黒い皮張りの高級応接セット。 いつもは、鷹宮さんの机の横に椅子を持ってきてそこに座っているのに、なぜ今日に限って応接ソファー? 疑問に思いながらも特に拒否する理由もなく、大人しく3人掛け用のソファーに座った。 「何か飲む?」 「いえ、喉は乾いてないので大丈夫です」 「そう?それなら早速始めようか」 言葉どおり、自分の机から書類を持ってきた鷹宮さんは、そのまま近づいてきて…。 「………」 「ん?なに?」 「…何っていうか…、なんで真横に座るんですか」 てっきり向かい側のソファーに座ると思っていた相手が書類を持ったまま真横に座ってきたせいで、ギョッとした顔で見てしまった。 おまけに、少し腕を動かせばお互いにぶつかる程の近距離。 これで疑問に思うなと言う方が無理だろう。 「なんでって…、近い方が手取り足取り腰取り教えられるから」 「腰…?」 「うん、こんな感じ」 聞いた俺が馬鹿でした。 隣から伸びてきた手が腰に回され、優しい仕草で引き寄せられる。 「ちょ…、何やってるんですか!」 「だって深君が聞くから」 …もう余計な事は何も言うまい…。 そう心に誓った瞬間だった。 纏わりつく鷹宮さんの腕を無理やり引き剥がし、なんとか生徒会の仕事の手伝いを開始してから暫くたった頃。 固まった背筋を伸ばそうと顔を上げた時に見えた時計が19時を指していることに気が付いた。 窓の外は、さすがにもう暗くなっている。 「今日はこれで終わりにしよう。お疲れ様」 「お疲れ様でした」 なぜ俺が生徒会の仕事を手伝わなければならないのか甚だ疑問だけど、断れないんだからしょうがない。 諦めの境地に辿り着いた今日この頃。 疲れた体を伸びをする事で解していると、隣で資料を片付けていた鷹宮さんがフとこっちを向いた。 「…なん…ですか?」 「深君、頑張ってくれてるし、何か1つお願い事を叶えてあげようかな~ってね」 「お願い事?」 そう言われて、人畜無害に見える優しい笑顔を見ながら脳裏に浮かんだのは、ただ1つ。 『ローゼンヌの噂の真相』 たぶん、それを聞けるのは今しかないだろう。 ソファーに座ったまま、改まった態度で鷹宮さんに向き直った。 「お願い事じゃないんですけど、1つ聞いてもいいですか?」 「ん?頼み事じゃなくて質問でいいの?どうぞ」 そう言って快く了承してくれたのはいいけれど、 …何故そんなに好奇心いっぱいの目で俺を見るんだ…。 まるで、子供が興味のある物を見つけた時のような顔。わくわくキラキラ。 それに若干の罪悪感を覚えながらも、ここまで来て引き下がることなんてできず…。 躊躇いながらも口を開いた。 「あの、…鷹宮さんって、ローゼンヌ劇団と関係があるんですか?」 「………」

ともだちにシェアしよう!