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学園生活Ⅱ-14

†  †  †  † 「天原君、おはよう!」 「お、おはよう」 「天原先輩、おはようございます」 「…おはよう」 夏休みが終わって一ヶ月が過ぎ、制服の衣替えも終わってようやく朝晩の気温が涼しくなってきたのはいい。 けれど、学園内での俺に対する周りの態度には、妙に薄ら寒いものを感じて気味が悪い。 最初の内は意味がわからなかった。 けれどつい先日、少しだけ用があって訪れた理事長室で、原因を知る事となった。 『だから言っただろ。夏のパーティーでお前の素性が知れ渡れば、周りの態度も変わってくると』 そう呆れながら言った咲哉の言葉で、ようやく理解できた。というか、理解できたというより原因がわかったというべきか。 家柄で態度が変わるなんて事は一生理解したくない…。 挨拶以外の声はかけてこないものの、あからさまに投げかけられる視線だけはどうにも防ぐ事ができない。 その状態にすでに嫌気を覚えながら昇降口で靴を履き替えていると、後ろから肩を叩いてくる手があった。 何気なく振り向いた先、絶対に自ら声をかけてくる事はないだろうと思っていた相手がにこやかな笑顔で立っていて、思わず目を見開いた。 …なんで…。 「おはよう、天原君」 「…北原…」 後ろに立って親しげな笑みを浮かべていたのは、いつの間にかお互い天敵のような関係になっている北原だった。 笑顔に棘が含まれているように感じるのは、気のせいではないはず。 「やだな、そんな顔しないでよ。最近は天原君の素性も広まって、皆が好意的になってきたんじゃない?」 「…そういうのは好意的っていうのとは違うと思うけど」 「そう?まぁ…天原君がそう言うならいいけど。でも逆に、黒崎君とは仲良くできなくなっちゃったね。同室なのに大変だけど、しょうがないよね。黒崎君には僕達がいるし、天原君は気にしないで他の人と仲良くすればいいよ。それじゃ」 「秋と仲良く出来ない…?ちょっと、北原…、それどういう意味」 言いたい事だけをさらりと言った北原は、俺が問いかけた言葉を無視して悠々と歩き去ってしまった。 俺と秋がもう仲良くできないって…どういう事? 北原の後ろ姿を見るともなしに見つめながら、茫然と立ち尽くす。 部屋では今まで通り普通に話しているし、秋の態度にも変わったところは見られない。 それなのに、何を根拠にそんな事…。 言ってきた相手が北原なだけに嫌な予感を感じながらも、周りに流されるように教室に向かって歩き出した。 昼休み。 朝の事が妙に気にかかって食欲がわかなかった俺は、食堂へ行くという真藤達と別れ、1人で特別棟の校舎内を散歩していた。 そして今、目の前には、選択をとっていない為に来た事のない音楽室の扉がある。 二重になっている厚い防音ガラスの扉。 廊下側から直接見えるのは、音楽室に入る前にワンクッション置かれたような2畳程の小部屋だけ。 関係ない人間が勝手に入っていいものか…。 少しだけ不安に思いながらも、好奇心には勝てずに手を伸ばした。 「うわ…広…」 2つの扉をくぐって中に入った瞬間視界に入ったのは、階段状になっているかなりの広さの室内と、いちばん前に設置されている大きな白のグランドピアノ。 この広さ、学園の人間を一度に全て収容できると見た。 そして、この部屋の広さとこのピアノの大きさを見比べて思わず脱力。 このグランド、コンサートホール用の一番大きなタイプだ…。 近づいてメーカーを見てみると、外国の某有名ブランドの名前が刻まれている。 と言う事は、数千万円レベルの物? 眩暈でクラクラしてきた。 一般校とは多少違うとはいえ、ここはあくまでも高校だ。 いくらなんでもやりすぎだろ…。 「おまけに白って…、咲哉の趣味か」 室内全体がカントリー調の明るい木の素材で統一されているだけでも学校らしくないのに、更に白いグランドピアノ。 外側に面する壁は上半分が窓になっているけれど、ピアノに陽が当たらないように上手く工夫されている。 明るく爽やかなこの空間で1人遠い目になりながら、ピアノの前にある椅子を引いて腰を下ろした。 単なる選択授業ごときででここを使うなんて信じられない。音楽校でもないのに贅沢すぎる。

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