110 / 226

学園生活Ⅱ-20

†  †  †  † 週明けの月曜日は、いつにも増して校内が騒がしい気がする。 土日休みの間に、出掛けたり買い物をする生徒が多いからだろう。 お互いに自慢しあったり情報交換をしたり…、話題は尽きない。 特に一番盛り上がるのは、昼休みの食堂だ。 「僕ね~、金曜の夜立ちでマカオに行ってきたんだ~。今日帰ってきたからまだ眠くって…」 「俺は知り合いのモデル事務所に頼まれてモデルの仕事させられててさー、面倒くさいったらないぜ」 「俺なんて好きなブランドの新作を全部買っちゃったよ」 くだらない内容の会話に、食事をする手も止まる。 聞いてるだけで腹いっぱい…。 「天原、気持ちはわかるけど早く食べろ。じゃないと、ここから出られない」 「そうだよ~、そんなに何回もフォークで刺したって人参は減らないよ~?」 「…食べます」 既に食べ終わっているらしい真藤と薫が呆れたような目でこっちを見ている事に気づいて、渋々と人参を口に運ぶ。 もう半年は経つけど、周りのお坊ちゃん的会話にはどうしても慣れない。 それでも、なんとか残りの野菜を食べて昼食を終わらせた。 「僕、教室帰って寝る~。お腹パンパン~」 食堂を出ると、薫が腹を両手で叩きながら教室に向かって歩き出した。 それに続いて真藤も、「読む本があるから俺も教室に戻る」と言って、薫の後から教室に向かう。 俺は…と言えば、いつもと同じく特にする事もなく、学園内の散歩に出る事にした。 山の中腹という立地のせいか、10月も半ばになると昼間でも涼しさを感じる。 でも、これだけ天気が良ければさすがに肌寒いとまではいかないだろう…と、久し振りに中庭へ向かって歩き出した。 「花の種類が変わってる…」 中庭に足を踏み入れて、いちばん最初に気付いたのがそれ。 咲いている花が秋仕様になっている。 コスモス、リンドウ、桔梗。 先月末までは青々していた紅葉(もみじ)の葉も、徐々に紅く色づきはじめているみたいだ。 夏までは洋風庭園のイメージが強かったのに、秋仕様になった途端、和風庭園の様相に早変わりしている。 ここの庭師も大変だな。 作業しているところを見た事がないから、どんな人がここの管理をしているのかわからないけど、凄いな…と思う。 そんな事を考えながら、小道のようになっている石畳を渡り、奥にある噴水へ向かった。 噴水の周りにはいくつか木製ベンチが並んでいて、こんな天気が良い日は絶好の日向ぼっこスペースになっている。 あまり奥まで来る事がなかったせいで、この噴水とベンチに気がついたのはつい最近の事だ。 ここまで来る人は、ほとんどいない。 人がいないからこそ心底リラックスできる。 腕を上に伸ばして体を解しながら、噴水を真正面に見る事ができるベンチに座って背もたれに深く寄りかかった。 「いい天気だなぁ…」 常に流動している噴水に、陽の光がキラキラと反射している。 そよ風と日差しがちょうどいい心地よさ。 物凄く癒される。 瞼を閉じても感じるホワッとした陽の暖かさに、顔が自然と緩んでしまう。 一人でヘラヘラとしてるなんて端から見たら危ない奴にしか見えないんだろうけど、誰も見ていないのだから気にしない。 …と思ったのも束の間、こっちへ向かって近づいてくる数人の足音が耳に入ってきた。 閉じていた瞼を開くと、3人の生徒が談笑しながら噴水の横を通る様子が視界に入る。 誰も来ないと思っていたけど、さすがに0ではないらしい。 俺と同じように散歩してる途中なんだろう…と、特に気にする事もなくまた瞼を閉じた。 けれど、彼らは違った。気にしないどころか、足を止めたんだ。 突然ピタリと会話をやめたかと思えば、少ししてから何やらヒソヒソと話し合いを始める。 天原がどうのこうのと名前が漏れ聞こえるという事は、俺の存在を知っているのだろう。 こっちからしたら、まったく見覚えのない顔だったけど…。

ともだちにシェアしよう!