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学園生活Ⅱ-23
Side:黒崎
「黒崎君。さっき、なんで突然立ち止まったんですか?」
「…なんの事?」
深の後ろを通り過ぎ、渡り廊下から教室棟へ足を踏み入れたところで、隣にいた人物が声をかけてきた。
同学年にも関わらず敬語を使ってくる長谷部 。
チラリと見たその顔には、無邪気に見える笑みを張り付かせている。
影に隠れて、俺と深が親しくする事を阻害しようとしている人物の内の1人。
なぜ立ち止まったのか…、理由は深だとわかっているはずなのに聞いてくるこの歪んだ性格。
その問いに俺がまともに返すと思っているのだろうか…。
「渡り廊下に出た瞬間に立ち止まったじゃないですか。でも特に何かがあったわけじゃないから、どうしたのかと思って…」
「考え事をしていたからだよ。紛らわしい行動をしてしまったかな?」
長谷部に視線を向けて真顔で返すと、さすがに慌てたらしく「紛らわしいだなんて、そんな事ないです!余計な事を言ってゴメンナサイ!」と、首が取れそうなくらい勢いよく左右に振りだした。
真顔で返した俺の反応に、まずい質問をしたと気付いたのだろう、僅かに顔が青褪めている。
そんな長谷部から視線を外して、また前を向いた。
目的地である職員室までもう少し。
後ろを歩いている3人が楽しそうに会話をしている声を耳に入れながらも、頭の中ではさっきの渡り廊下での出来事を思い出す。
あの時、雨の降る様子を眺める深の綺麗な横顔が目に入った瞬間、思わず足を止めてしまった。
そしてその直後。深の隣に立つ宮原の姿に気付き、胸の中に湧き起こった黒く冷たい感情。
2人でいる事が何の違和感もなく自然に見えたあの状態…。
自然だったからこそ、それが余計に心の内を冷たくさせる。
こっちに気付いたはずの深が、まるで見知らぬ相手だとばかりにまた外を向いた時、無理矢理にでも腕を掴んでこっちを向かせたかった。
それを止めたのは、宮原の深に対する親しげな行動。
自分のモノのように深の頭を触る様子に、気付けば足を踏み出して渡り廊下を通り過ぎていた。
「あ…、黒崎委員長。学年主任が職員室から出て行きますけど」
後ろを歩いていた後輩の声にハッと我に返ると、もう目の前に来ていた職員室から、ちょうど探していた教師が出てきたところだった。
教えてくれた背後の後輩に礼を兼ねて頷き返し、頭の中を切り替えてその教師に向かって足を進めた。
Side:黒崎end
「失礼します」
目の前にある生徒会室の扉を慣れた手つきでノックしてから、室内に足を踏み入れる。
宮原を渡り廊下へ放置した後、今日もまた呼び出しをかけられていた鷹宮さんの元へ来たのはいいけれど、徐々にこの場に馴染んできているのが微妙な感じだ。
でも、さっきの秋の事が頭から離れない今、正直言って、鷹宮さんの仕事を手伝える気力は無い。
「どうぞ、座って。………深君?どうかした?」
それまでいつもの微笑みを浮かべていた鷹宮さんが、突然怪訝そうに眉を顰めて俺の顔を覗き込んできた。
思わぬ距離の近さに驚いて、咄嗟に身を引く。
「な…、何がですか?」
この人の真剣な眼差しは鋭すぎて、相変わらず心臓に悪い。
こんな目で見つめられてしまう程、今の俺はあからさまに変な雰囲気を醸し出しているのだろうか…。
特に変わりはない…はず…だけど…。
自分の姿を見下ろして、制服の裾を引っ張ってみる。ついでにネクタイも整えてみたりして。
「…顔」
「顔?」
一言呟かれた言葉に、制服を整える手を止めて自分の頬を触った。
「何も、付いてませんけど…」
意味がわからない。
応接ソファの横に立ち尽くしたまま、特に乱れてもいない髪の毛を整えてみる。
いったい何の事だともう一度問いかけようとしたその時、突然顎先を掴まれて上を向くように引き上げられてしまった。
驚きに目を見開く俺を、鷹宮さんが真顔で見下ろしてくる。
「…な…んですか…?」
「こんな泣きそうな顔をして…。何があったのか教えてくれる?」
「泣きそうな顔…?」
その言葉にハッと気付いた。
さっきの渡り廊下での事を引きずっている胸の内が、そのまま表情に表れてしまっているのだと。
自覚はなかったけど、そんなに顔に出ているのだろうか。
だからあの時宮原も、人の顔を見て「変な顔」なんて言ったのだろう。
…全然ダメダメだな、俺…。
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