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学園生活Ⅱ-25
† † † †
金曜日の夜。
リビングのソファに座ってクッションを抱えながら、『実は時間って物凄い速さで流れてるんじゃないだろうか…』と、しみじみ思ってしまった。
月曜日が来たばかりだと思っていたのに、今はもうすでに金曜日の夜。
思い返すと、この一週間は色々な事があった気がする。
その一番の原因である人物は、仕事が忙しいのかまだ帰ってこない。
2日前の放課後。渡り廊下での出来事があってからほとんど顔を合わせていないせいで、妙に気まずい感じがいまだに拭えずにいる。
「…今日こそ捕まえて話をしないと…」
抱えているクッションに顔を押し付けながら、自分に言い聞かせるように呟いた。
テレビも何もつけていないせいか、室内がやたらと静かで、自分の心臓の音だけがトクントクンと耳奥に響く。
その静けさにウトウトと微睡みそうになった時、扉が開くカチャっという小さな音が聞こえた。
…秋だ…。
一気に全身に血が巡り、緊張が走る。
そのままピクリとも動けずにいると、リビングに入ってきた秋が途中でピタッと足を止めた気配を感じた。
たぶん、ソファに座っている俺に気が付いたからだと思う。
視線が痛いほどに感じられる。
「…ただいま。…まだ、起きてたんだ?」
ただいま、という静かなその声に「おかえり」と返そうとしたけれど、続いた一言が聞こえた途端、心臓を鷲掴みにされた気分になった。
…まだ起きてたんだ…、って、もしかしてこの2日間顔を合わせなかったのは、秋がワザと遅く帰ってきて俺を避けてたって事?
今の発言は、そうとってもおかしくない。
クッションを横に置いて後ろを振り返ると、無表情の秋と目が合った。
「…おかえり。……秋、ちょっと話をしない?」
「そうだね…、俺も深と話をしたいと思ってた」
頷いた秋は、リビングを横切って奥にある机に通学用バッグを置き、帰宅後の身支度をはじめた。
話をしようと言い出したのは俺の方なのに、何をどう話せばいいのか混乱してしまって、ただ秋の姿を目で追うことしか出来ない。
そうこうしている内に、身の回りの片付けを終えた秋が横に来て、1人分空けた位置に座った。
三人掛けソファーの端と端にいるこの距離が、俺と秋の微妙に離れた関係を表しているようで…、少し悲しくなる。
秋の視線は伏せられていて、何を考えているのかよくわからない。
遠回しに上手く話す方法はないだろうか…。
ここまできて、まだそんな事を考えてしまう自分が情けない。
率直にハッキリ言おう。
そう意を決したのは、暫く沈黙が続いた後だった。
「…あのさ…、秋、もしかして俺のこと避けてたりする?」
視線を合わす度胸はなく…、前を向いたまま、秋を見ずに直球の問いを投げかける。それだけの事なのに、とてつもなく緊張して胃が重くなる。
その問いに僅かに身じろぎした秋は、少したってから零れ落ちるような溜息を吐いた。
「…そうだね。この2日間、避けてるかと聞かれたら…肯定するしかないね」
「…な…んで…」
覚悟はしていたけど、本人の口からはっきり肯定される事がここまで辛いとは思わなかった。
何故なのか…、しっかりと意味を問い質したいのに、秋の顔を見るのが怖くて横を向けない。
「…俺は秋と仲良くなりたいと思ったし、秋もそう思ってくれたらいいなって思ってた、でも、本当は迷惑だった?俺、近づかない方がいい?……本音を、教えてほしい」
どう取り繕っても暗くなる声を、少しでも軽く聞こえるように頑張ってみたけど、秋には俺の内心の動揺なんて見抜かれている気がする。
それでも、あからさまに態度に出したくないのは、俺のプライドだ。
平静を装いながらも、緊張で心臓が破裂して死にそうになっているのを必死に隠す。
キュッと縮むような思いのまま返事を待っていると、不意に秋がこっちを向いた気配を感じた。
それでも俺はまだ秋を見る事ができずに、視線を下に落としたまま。
「…本当は迷惑だった?…って…、それ、なんの話?」
何故か驚いた感じのする声に思わず顔を上げて秋を見ると、眉を寄せて俺を見る視線をぶつかった。
どうして、そんなに意外そうな顔を…?
「なんの話って…、秋が俺を避けている理由だよ。俺に親しい態度取られるのが迷惑だからなんだろ?って」
「深の事を迷惑だなんて、俺は言った事ないよね?」
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