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学園生活Ⅱ-26
いまだに困惑した表情の秋を見て、ふと過去の出来事を頭に巡らせた。
そう言われてみれば、周りの奴らに『黒崎君が迷惑してるから』と言われた記憶はあるけれど、秋自身に迷惑だと言われた事は…ない…?
家の事には関わらないでほしいとは言われたけど、俺自身が迷惑だとは……言われてない、かも…。
…あれ?それなら、なんで俺はそう思い込んでいたんだ…?
そこまで考えた時に蘇った、渡り廊下での秋の行動。
あの冷たい表情と何も言わずに通りすぎた後ろ姿、…そして、中庭で見知らぬ奴等に通りすがりに言われた言葉…。
それらが全部ごちゃまぜになって、そう思いこんだんだ。でも、単なる思い込みという保証はない。実際に秋の心は…。
また、気持ちが沈んでいく。
「…でも、さ…、俺が秋に関わると秋が迷惑するって、ハッキリと周りの奴等に言われた。……この際だから秋の本音を聞きたいんだ。俺は、秋に気を使われてまで親しい振りをしてもらいたくない。だから、…本当の事を言ってほしい!」
グッと拳を握り締めて、吐き出すように言葉を放った。
もしこれで秋が「わかった、それならもう関わらないでくれ」なんて言ったら、本気でショックを受けるだろう。
でも、偽りの関係を続けるよりはいい。
そう覚悟を決めた。
緊張のあまりに上手く息ができなくて、一度大きく深呼吸して何とか気持ちを落ち着けてみる。
それでも、秋からは返事が返ってこない。
…1分、…2分…。
普通なら短く感じる時間なのに、今だけは異常に長く感じる。
それでもまだ、秋は口を開かない。
「…秋…?」
いつまでたっても何も言わない様子に、待ちきれなくて声をかけた。
けれど、俺の声と共に視線を上げた秋の双眸が鋭さを増している事に気がついて、気圧されるように口を噤む。
怒りを堪えているとしか思えないその表情。
…もしかして、俺、馬鹿な事言った…?
胸の内に押し寄せてきたのは、果てしないほど苦い後悔。
なんて馬鹿な事を言う奴だと、呆れられてしまったのだろうか…。
目を合わせている事が苦しくなって、秋から視線を逸らす。
「…深、誰に何を言われた?」
「…え…?」
耳に届いたのは、無理に感情を抑えたような不自然な低い声。
想像したのとは違う問いかけに、瞳を揺らして戸惑ってしまう。
「俺が迷惑に思ってる…とか…、その様子だと他にもまだ何か言われてるんだろ?…誰に何を言われた?」
「………」
特に激昂しているわけではない静かな口調。それなのに、秋が物凄く怒っている事が伝わってくる。
でも、1つだけわかった事がある。
…秋が怒っている原因は、俺の発言じゃ…ない…?
逸らしていた視線をもう一度恐る恐る隣に向けると、そこにはやはり鋭く強い眼差しの秋がいた。
その真剣な瞳の前では、誤魔化す事なんて出来ない。
それに、ここまできて誤魔化すつもりもない。
一度深呼吸して気持ちを落ち着かせてから、今まで自分が言われた事、そして自分が思った事を全部ハッキリと伝えた。
周りに色々な事を言われて自分がどう思ったか…、秋と離れた方がいいかもしれない、と考えた事、時折見せられる秋の突き放したような態度に対する不安も、何もかも全て話した。
それに対しての秋の反応は、
…無言…
だった。
無言というよりは、たぶん、真剣に考えてくれているんだと思う。
今から告げられる言葉は、きっと秋の本心のはず。例えそれがどんなものであろうと、しっかり受けとめて、それこそを信じよう…と、そう心に決めた。
疑ったり悩んだりするのは、これで終わりだ。
そして暫くたって、静かに秋が話しだした。
「まず最初に、深に謝らせてほしい。本当にゴメン。謝ってすむ事じゃないかもしれないけど、そこまで深がイヤな事を言われているとは思わなかった。俺の考えが甘かったって事だな…。………それと、俺の態度の事は…」
そこまで言って、再び言い淀む秋。
よほど言いづらい事なのか。
でも、そんな秋の様子も今の俺には全く気にならなかった。だって、まさか謝られるなんて思っていなかったから…。
俺が色々と言われたのは秋が悪いわけじゃないのに、俺と周りの人間の問題なのに、それでも秋は自分が悪いと言う。
…なんかもう、周りで色々言ってきた奴らよりも、こんな事を秋に言ってしまった自分が一番秋を傷つけてしまったんじゃないかとさえ思う。
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