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学園生活Ⅱ-34
† † † †
週が明けた月曜日。
週末にリフレッシュできたおかげか、かなり爽やかな気分で一日を過ごす事ができた。
いつもの月曜日だったら、絶対に授業中にうたた寝の1つでもしていたはずなのに、楽しい気分が持続しているせいか勉強も楽しい。
こんな日は、夕暮れ時のオレンジに染まる空さえ明るく見えてしまう。
「どうしようかな」
放課後。
あまりに気分が良く、すぐに寮へ戻るのがもったいない気がして、なんとなくウロウロと学園の敷地内を散歩していた。
久し振りに中庭にでも行ってみるか。
この前来た時は変な奴らに変な事を言われて嫌な思いをしたけれど、それはべつに中庭に罪があったわけじゃない。あの場所自体は居心地がいい空間だ。
陽も落ちてきて、ブレザーだけだと寒いけれどしょうがない。花壇の周りを少しだけ歩いて、気が済んだら早々に部屋へ戻ろう。
そう決めると、さっそく中庭に向かって足を進めた。
「また変わってる…?」
この前ここに来た時は秋仕様だったのに、花壇に植えられている花々がもう冬仕様に植え替えられている。
中庭に入った瞬間に気づいたその素晴らしい変化を見て、会った事もない庭師に尊敬の念を抱く。
「…で…、…………なんです。……は、……ましたっ」
感心しながら花壇の間の小道を歩いている途中、不意に、垣根の向こう側から誰かの声が聞こえてきた。
途切れ途切れにしか聞こえないものの、その必死さだけは伝わってくる声音。
中庭の奥の方から聞こえてくるそれに、胸の片隅がザワついた。
…まさか、誰かが苛められてるのか?
自分の事があったせいか、悪い方へと想像が膨らむ。
足音を立てないように静かに歩を進め、向こうからは俺の姿は見えないだろう位置へ移動して、木の陰から声のする方を窺い見た。
「…え…?」
そこにいたのは二人の生徒。
顔を真っ赤にしている背の低い人物は見た事がないけれど、それと対峙している背の高い人物はよく知る人物だった。
よく知る人物どころか…。
「…秋…?」
どうやら苛めではなかったらしい事がわかってホッとした。
でも、大丈夫だと確認したのだから早くその場を去ればいいのに、何故か凍ったように足が動かない。
…二人で何を?
心臓がにわかにドキドキと激しい鼓動を刻みだす。
「…中等部の時からこの気持ちが変わる事はありません。…黒崎先輩…、…僕と…お付き合いして頂けませんかっ」
今にも泣き出しそうなその可愛らしい人物は、全てを言い切ると秋の顔を必死な表情で見つめた。
…告…白…?
頭の中が真っ白になっていく。
…秋は、いったいなんと答え…
そこまで考えた時、ハッと気がついた。
これはどう考えても盗み聞きだ。
秋の答えを知りたいと思う反面、友人の告白されている場面を覗いている事への罪悪感が溢れ出す。
そして、俺の選んだ行動は、
その場を去る。だった…。
静かに踵を返して、そっと花々の間を通りぬける。
さっきまでは綺麗に見えた景色も、今となってはその色彩すら目に入らない。
…なんでこんなにイヤな気持ちになるんだ?秋が誰に告白されたって誰と付き合ったって、俺には関係ないのに…。
そう思う心とは裏腹に、湧き起こる感情に苦いものが含まれている事を、意識的に振り払って捨てた。
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