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学園生活Ⅱ-37
† † † †
side:高槻
「もしもし、深君?」
『高槻さん?あれ?なんで俺の携帯番号知ってるんですか!?』
高槻は、携帯の向こうから聞こえてくる驚いた声に、自然と表情を緩ませた。
相変わらず可愛い反応するな~。
「それは、ヒ・ミ・ツ」
『………』
あれ?返事がこない。今の言い方は気持ち悪過ぎたか?
『…高槻さん、相変わらずですね』
「アハハハ。深君も相変わらず可愛くてお兄さんは嬉しいよ」
これは本気。
自分が一人っ子のせいか、深君が可愛くてたまらない。
こんな可愛い弟がいるなんて、宏樹が羨ましい。
『どうしたんですか?わざわざ電話してくるなんて、何かあったんですか?』
僅かに心配そうな声。
ん~…イイ子だ。
『…もしもし?高槻さん?』
ハッ、しまった。深君の声に聞き惚れていたら返事するのを忘れてた。
「あ、ゴメン。…え~っとね、何かあった訳じゃないんだけど、なんとなく深君と電話で話してみたかっただけ」
最後にエヘっと笑うと、携帯の向こうから『…高槻さん…』という疲れたような声が聞こえてきた。
だってしょうがないだろ。本当にそうなんだから。
『……あの…、高槻さん…。聞いてもいいですか?』
不意に聞こえた真剣な声。
少しだけ戸惑いのようなものも含まれているように感じる。
「…いいよ。なんでも聞いて」
さっきまでの茶化した態度を改めて、携帯を耳に当て直した。
言い辛い事なのか暫しの沈黙が続き、一度だけ息を詰めるような空気を感じた後、深君の声が流れてきた。
『…高槻さんは…、婚約者っていますか?』
「婚約者?……いや、いないよ」
『…そうですか…』
深君の口から、婚約者って言葉が出るとは思わなかったな。
まさか、政略結婚させられそうになってるのか!?
いやいやいや…、それなら深君じゃなくて宏樹と香夏子ちゃんの方が先だろうし…。いったいどうしたんだ。
『…あの…、俺達みたいな家って、やっぱり婚約者っていて当たり前なんですか?』
「当たり前って事はないけど…、家が大きければ大きいほど、政略結婚になる確率は高いね」
『…そうですか…』
…く…暗い…。俺の可愛い深君が沈んでる…。
「あ、あのね、深君。もし深君が自分の結婚とかについて悩んでいるなら、大丈夫だから。宏樹も香夏子ちゃんも、『政略結婚するなら自分達がすればいいし、例え政略結婚だとしても幸せになれる相手を選んでみせる』って前に言ってたよ。だから深君も、自分が幸せになれる相手を見つければいい。…なんだったら、言ってくれれば俺が深君をもらうから!」
励ますつもりで言ったけど、最後の言葉だけは半分以上本気だったりする。
俺って青年実業家だしお買い得だと思うんだけどねぇ…。
でも、その本気は深君には伝わらなかったみたいだ。
携帯の向こうから笑い声が聞こえてきた。
『そうですね、俺に相手が見つからなかったら高槻さんにお願いしようかな。高槻さんの事だから選り取りみどりだとは思いますけど。…でも、ありがとうございます』
あ…、俺の励まそうとした気持ちは伝わったらしい。取り敢えず、良いタイミングで電話した事になるのかな。
「俺の番号、そっちに出てるよね?それ登録しておいて、いつでもかけてきてくれていいから」
『はい。…なんか心強いですね。頼りにさせてもらいます』
「任せて。宏樹よりも頼ってくれていいから」
そう言うと、深君から小さな笑いが零れ出た後、少し慌てた口調になり
『…すみません、誰か来たみたいなので…』
と言われてしまった。
残念だけど、早々に退散するとしよう。
「夜更かししちゃダメだよ。オヤスミ」
『高槻さんもね。…おやすみなさい』
そして、束の間の幸せは終了した。
耳に当てていた携帯を下ろし、デスクの上に置く。
置いた携帯の下に、【至急】と印の押された書類が見えた気がしたけど、気にしない気にしない。
一息吐いて椅子の背もたれに寄りかかり、さっきの深君との会話をもう一度脳裏に浮かべてみた。
…婚約者か…。
その話がどこに繋がるのかわからないけど、悪い方向へ転がる話じゃない事を祈るしかないな。
脳裏に浮かぶ相手の綺麗な顔を思い浮かべて、静かに目を閉じた。
Side:高槻end
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