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学園生活Ⅱ-41
† † † †
キーンコーンカーンコーン
午前の授業終了のチャイムが、校内に響き渡る。
「ん~っ、お腹空いた~!早く補充しないと充電が切れちゃう~!」
教科担当の教師が出て行ってすぐ、目の前の席で薫が伸びをしながら騒ぎ出した。
「お前は充電が切れたくらいがちょうどいいんじゃないか?」
真藤が明らかに本音とわかる口調で呟いたけど、俺も同意する。
そして薫がプンスカと怒り出す。
いつもと変わらないやりとりを繰り広げる二人を視界の端に入れながら、薫が怒りで暴れだす前に机の上を片付けるべく教科書を中にしまっていると、不意に教室全体がザワリと騒がしくなった。
なんだ…?
顔を上げて見渡した教室内。何故かみんなの視線がある一定方向を向いている事に気がつく。
後ろ?
周りの視線を辿るように後ろ側の扉付近へ目を向けると…。
「……秋…」
そこには、勘違いしようもないくらい俺だけを見ている秋の姿があった。
「深君、早く行った方がいいんじゃない?気のせいかもしれないけど、なんか黒崎君、オーラが怖いよ?」
さすが薫、鋭い。
普通の人が見ればいつも通りの表情にしか見えないだろうけど、俺にはわかる…、あれは絶対に機嫌が悪い。
薫がオーラでそれを読み取ったのは凄いと思う。野生の感か?
「薫、真藤。悪い、昼は二人で行ってくれる?俺は秋と一緒に行くから」
「あぁ、わかった」
「喧嘩しちゃダメだよ~」
その声に見送られながら秋の元に辿り着くと、「話がある」とボソッと低く呟かれた。
気圧されて何も言えないでいたら、秋は俺の返事を待たずにさっさと歩き出してしまい、慌ててあとを追って教室を出た。
辿り着いたのは、前にも来たことがある空き教室。
ここは相変わらず薄暗く、ホコリ臭い。
カーテンを開ければだいぶ明るくなるのに…と思ったけれど、普段から使われていない部屋に日の光が入ると壁や床が紫外線で痛むのだと教えてもらってからは、しょうがない事だと納得している。
シンと静まり返った室内に、俺達二人だけの気配。
扉を隔てた向こう側は昼休みで騒がしいのに、たかが壁一枚で空気は随分と変わってしまう。
秋が何も言わないせいで、俺はただ待つしか出来ない事がもどかしい。
それでも、何を言われるのかはだいたいわかっている。
たぶん、昨日の事だ。
『いいかげんに黒崎君から離れたらどう?』
『そうだよ。アンタの力だったら寮の部屋だって変更出来るんだろ?黒崎君から離れてよ』
夕食時。
相も変わらず、秋に取り入ろうとしている奴等が突っかかってきた。
最近は大人しくなっていたから、俺に文句を言うのはいい加減に飽きたのだろう…と思っていたのに、単なる小休止だったようだ。
いつもなら、関係ない人間にそんな事を言われる筋合いはない!と、一喝して退けていたのだろうけど、この時は違った。
秋に対してギクシャクした気持ちを持っていた俺は、心にも無い事を言ってしまったんだ。
『べつに俺は秋と特別親しくなろうなんて思ってない。部屋が同じだから必然的に仲良くなっただけだ。部屋だって、割り当てられた場所を個人的な感情で変更してもらうなんて我が侭な事は言いたくない』
と…、まるで(秋と同室になる事を俺が望んだわけじゃない。割り振られたからいるだけであって、そうじゃなければ一緒になんていない)…とも取れるような事を言ってしまった。
実際には違うのに、心に余裕がなかったその時は、破れかぶれのような言葉選びをしてしまった。
これを、なんでもない事のように聞く相手ではない。
案の定、怒りで顔を真っ赤にし、
『それがアンタの本音なんだ!?黒崎君が可愛そうっ。この事、絶対に黒崎君に伝えてやるんだから!』
そう言って食堂から走り去ってしまった。
たぶん、その出来事が秋の耳に入ったのだろう。
言い訳をするつもりはない。明らかに自分が悪い、単なる八つ当たりだ。
第三者の口からあんなイヤなセリフを聞かされて、気分が悪くならない人間なんていない。
今度こそ本当に秋から見放されても、しょうがないとさえ思う。
そんな風に自分の馬鹿さを認めながら静かに待っていると、数分の沈黙が続いた後、それまで黙っていた秋がようやく口を開いた。
「…深に聞きたい事がある」
「…うん…」
「最近、俺の事を避けてる気がするけど、それは気のせいじゃないよね?」
「………うん…」
静かな口調で言葉を紡ぐ相手に、勇気を出してハッキリ頷き返す。
すると、短く溜息を吐かれた。
呆れたような疲れたような…、心臓がキュッと痛くなるような溜息。
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