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学園生活Ⅱ-44

†  †  †  † side:鷹宮 これで引き継ぎが終われば、僕達の仕事もやっと終わりだ。 生徒会室に集う面々を見ながらホッと息を吐いた。 放課後。 生徒会役員、執務実行委員、風紀委員の合同役員会議で、10人の人間が生徒会室に集まった。 ただし、桐生は生徒会顧問との話し合いでこの場にはいない。 冬休み明けから、生徒会会長と副会長が他の誰かに代わる事が決まっている。 だから、役員会議に出席するのはこれが最後となる。 本来ならば10月で全ての役員が入れ替わるはずが、全校生徒の要望で、自分と桐生だけがギリギリまで会長・副会長の任に就くという異例の事態に陥った今期。 それも、あと少しで終わる…。 ホッとするような、なんとなく寂しいような…、複雑な気分。 けれど、卒業後の進路についてもいろいろとやらなければならない事が山積みになっている今、悠長な事は言っていられない。 「鷹宮会長。これからの仕事に関しては全て頭に入れましたが、…実際、次の会長と副会長には誰を指名するつもりなんですか?」 風紀委員会の副委員長が、手元の書類をまとめながら何気なく問いかけてきた。 その瞬間、この場にいる全員の意識がこちらを向く。 思わず苦笑いだ。 「それは、冬休み明けのお楽しみ。始業式の時に新会長・副会長の就任式もやるから、それまでは秘密だよ」 立てた人差し指を口元に当ててニコリと笑うと、彼らは一様に諦めの溜息を吐いた。 これ以上聞いても僕が答えないのは、今までの経験上わかりきっているからだろう。 「それでは、今日の役員会はこれで終了。お疲れ様」 委員会終了の号令に、それぞれが速やかに席から立って生徒会室を出て行く。 その中で一人だけ、声をかけて呼び止めた。 「黒崎、キミはまだ残ってくれるかな」 僕の声が聞こえたのだろう、こちらを向いた相手が「わかりました」と頷く。 それを確認し、お互いに他の役員が全員退室するまで資料の片付けをして時を待った。 最後の一人が生徒会室を出て扉が閉まった瞬間、僅かに空気が張り詰める。 「…それで、鷹宮さん。俺だけ残した理由は何ですか?」 「そんなに警戒しなくてもいいのに」 からかい混じりに言った途端、黒崎の目付きが剣呑になる。 ん~、重症だねこれは…。 机の縁に寄り掛かって腕を組んだまま。相手の様子を少しだけ眺める。 通常よりも神経の尖った状態だという事がハッキリと伝わってくる。 冷静沈着な黒崎らしくない。 そんな事を思いながらも、軽い口調で本題に入った。 「僕ももうすぐ卒業だし、そろそろ深君に本気を出そうかなーと思ってね。やっぱり後悔はしたくないし」 「なんでそれを俺に?そういう事なら直接深に言えばいいでしょう」 「なんとなく、先に黒崎に言った方が良いかなーと思ってね。…ま、僕の宣言だと思って頭に入れておいて」 「………」 黙ったまま、僕の顔を見つめてくる。 最近、深君と黒崎の様子がおかしいと、あちらこちらから噂が聞こえてくる。 一部の人間は大喜びしているみたいだけど、事はそう単純ではない気がする。 だからこそ、黒崎が何を考えているのか探りを入れるつもりで宣言してみたけれど…、不発だったかな? 少しだけ残念な気持ちで、寄りかかっていた机から体を離した。 「話はそれだけ。引き止めて悪かったね」 「…いえ、大丈夫です。それでは失礼します」 なんとなく頭が消化不良を起こしたような妙な顔つきで会釈をした黒崎は、深君の事について何も言う事はなく、そのまま生徒会室を出て行った。 室内に静けさが戻ると、途端に体の力が抜ける。 そこで不意に思い出した。 「…宮原に気をつけろって言うの忘れたな…。…まぁ、僕が言うまでもなくアイツならわかってるか…」 ほんの少しの危惧はあるものの、黒崎なら大丈夫だろう…と、本人の消え去ったあとの扉を見つめて溜息を吐いた。 side:鷹宮end side:黒崎 生徒会室を出て足早に歩を進め、寮棟まで辿り着いた途端にピタリと足の動きを止めた。 …鷹宮さんには…、敵わないな…。 『僕ももうすぐ卒業だし、そろそろ深君に本気を出そうかなーと思ってね。やっぱり後悔はしたくないし』 言外に、『グズグズしていると深君は僕がもらうよ』と言いたかったのだろう。 自分がどうしたいのかわからないまま、ただ深を傷つけている事はわかってる。 空き教室で無理やりキスをしてしまってから数日。 深と俺との間に壁が出来た。 当たり前といえば当たり前の事だけど、…これは想像以上にくるものがある。 けれどその前に、深が俺の事を避けていた理由がわからなければ、どう動く事も出来ない。 宮原が関係してない事はわかっている。でも、あの時はそれで深を責めた。 「自分がここまで情けない人間だとは思わなかったな…」 もう部屋に戻っているだろう相手を思い出して自嘲まじりに呟き、ロビー入り口の壁に寄りかかりながら、どうにもならない口惜しさを堪えようと目を閉じた。 side:黒崎end

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