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学園生活Ⅱ-45

†  †  †  † テスト期間が終わったあとの土曜日。 朝、目が覚めてリビングへ移動したところで、身支度を整えて外出する様子だった秋と出くわした。 「…おはよう」 「おはよう。今日は夜まで戻らないから」 「…わかった…」 視線も合わせないまま、秋は部屋を出て行ってしまった。 必要最低限で終わる会話に、胸がギュッと苦しくなる。 秋は、今の状態をなんとも思っていないのか。 もしそうなら、気にしている俺が女々しいという事なんだろうか…。 考えても考えても全てが堂々巡りで、また元に戻る。 「…とりあえず、顔を洗って目を覚まそう」 気を取り直すようにグシャリと前髪をかき上げて、洗面所へと向かった。 「あれ?休みの日にここでお前に会うのは初めてだな」 8時半。 食堂で朝食をとり始めたところにかけられた声。 横を見れば、サンドイッチとコーヒーらしき物をトレーに乗せた夏川先輩が立っている。 「おはようございます。俺は休みの朝も結構使ってますよ」 「おはよう。こんな時間にここにいる俺が珍しいって事だな。…前、いいか?」 「はい、どうぞ」 了承の言葉を告げたけれど、それよりも先にトレーをテーブルに置いている夏川先輩が相変わらず過ぎて、変な笑いが込み上げてくる。 「…へぇ~…」 「な…んですか?」 突然こっちを見て意外そうな顔をする先輩に、俺の警戒センサーが反応する。 今日は一体何を言われるんだ…。 身構える俺を尻目に、先輩は面白そうに目元を緩め、 「お前意外と食うんだな」 感心した声をあげられてしまった。 そんな雑談的な事を言われるとは思わなくて、一瞬言葉に詰まる。 「…そ…うですか?朝はしっかり食べないと頭が起きないので、毎日こんな感じですけど」 …言われるほど多いかな? 改めて自分の朝食を見てみる。 野菜のホットサンド1つ。フレンチトースト1つ。卵2個分のチーズオムレツ1つ。サラダ適量。フルーツ適量。そしてカフェオレ。 普通、だよな…? 「肉系は食べないんだな」 「…えっと…、はい、まぁ…そうですね」 突いてほしくない指摘に目を逸らして誤魔化す。 毎回のように「お肉~」と騒ぐ薫がここにいなくて何よりだ。 俺があまり肉系の食べ物を好まないなんてこの人に知られたら、事ある毎にそれ系の食事を用意されるだろう事は予想がつく。 想像してしまった恐ろしい光景に顔を顰め、出来るだけその件を掘り返されないように無言でオムレツを食べ始めた。 「そういえば、テストの出来はどうだった?お前の事だから問題はないだろうけどな」 「いつもと同じくらいだと思いますよ。…そういう夏川先輩は?確か前回は5位でしたよね?」 「よく知ってるな。俺もたぶん前回と同じくらいのはずだ。そして京介が1位か2位っていうのも、いつもと変わらず…ってとこだろ」 さすが、生徒会長と副会長に選ばれるだけあって、この人達は凄い。 ホットサンドを口に運びながら内心で感心していると、何かを思い出したように腕時計を確認した先輩が、珍しく焦りの表情を浮かべた。 「…まずい」 「どうしたんですか?」 「9時に知り合いと待ち合わせしてたのを忘れてた。…慌ただしくて悪いな、次は俺が奢ってやるから見かけたら声かけろ。それじゃ、な」 「気にしないで下さい」 最後に一口コーヒーを飲んでからトレーを持って立ち上がった先輩は、軽く片手を上げて歩き去っていった。 ただいまの時刻9時10分。 言葉とは裏腹に優雅に歩き去る様子に、やっぱり笑いが込み上げる。 「本当に夏川先輩ってどんな時でも夏川先輩だよな…」 呟くと同時に、フレンチトーストを口に放り込んだ。 朝食を食べ終わって部屋に戻ったのは、9時半を過ぎた頃だった。 10時に真藤と薫と前嶋が来ると言っていたから、ちょうどいい時間だ。 リーンゴーン 「…あれ?」 あと30分弱の間テレビでも見ようと思っていたのに、来客を告げる鐘の音が鳴り響く。 約束の時間より早いけれど、今日は3人以外に来る予定はないから間違いなくそうだろう。 ソファの背もたれに掛けてあったショートコートを手に持って、足早に扉へ向かう。 「おはよ~!今朝も冬晴れのイイ天気だよ~」 「おはよう天原!今日も朝から美人さんだね!」 「おはよう。時間より早くて悪いな。文句はコイツら二人に言ってくれ」 案の定、扉を開いた先には、朝からテンションが高い二人と、すでに疲れた感の漂う真藤の姿があった。 「おはよう。朝からお守りご苦労様」 挨拶は全員に、最後の言葉は真藤へ。 諦めたように肩を竦める真藤に乾いた笑いを返していると、扉を押さえていた手をグイっと掴まれた。 何事かと視線を下ろした先には、薫の満面の笑みが…。 「今日は久し振りに皆でお買い物なんだから、早く行こうよ~」 「そ…うだな、わかった」 いつもよりテンションの高い薫に頷きながら部屋を出た途端、左の手を薫に、右の手を前嶋に掴まれ、まるで保育士のような状態で歩き出す事となった。

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