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学園生活Ⅱ-46

「おぉ~!これ格好良くない?」 「うんうん格好良い~!前嶋君に似合わないのが残念だね~」 「……薫ちゃん…」 笑っていいかな?笑っていいよな? 「天原…、…なに笑ってんの…?」 「いや、なんでもない。うん、気にするな。…あ、前嶋。あっちにもイイ感じのがあったよ」 恨めし気にこっちを振り向いた前嶋に、笑いを噛み殺しながら斜め向こうを指差す。 学園を出て街に着いてから2件めの買い物場所、シルバーアクセサリーの店。 さっきから前嶋が見つけてくる物をことごとく笑顔で切り捨てる薫に、こっちは笑いを堪えるのが大変だ。 二人のやりとりを横目に真藤を見ると、こっちはこっちで我関せずと、自分の買い物はしっかり済ませている。 世の中を上手く渡るには、真藤を見習うのがいちばんかもしれない…。 それに習って、俺も早々に自分の買い物を済ませた。 いまだに戦いを続けている二人を店内に置き去りにし、真藤と二人で店を出て、歩道沿いのガードレールに腰掛ける。 「俺達が店内にいない事に気づくのは、いったい何分後かな」 「何十分後の間違いだろ。もしくは気付かないか」 「そこまで鈍くないだろ」 思わず突っ込む俺と、「いや、絶対にありえる」と真顔で言いきった真藤。もう乾いた笑いしか出てこない。 「あの二人が出てきたら何か食べに行こう」 「ん?あぁ、そうだ……な…」 返事の途中で突然動きを止めた真藤に、何事かとその視線を追って横を見た。 普通の人混みがあるだけで、特に変わった様子はない。 けれど、真藤はやっぱりどこか一点を見つめていて、その顔つきが微妙に険しくなっている。 …なんだ? 気になって、再度歩道の人波を見る。 でもやっぱり何も無………、 …ぇえっ?! 人波の間から見覚えのある姿が1つ、こっちに向かって近づいてきていた。 真藤は…といえば、俺がその人物に気づいた事がわかったらしく、諦めたように肩を竦めて苦笑いを浮かべている。 「やぁ、ご機嫌よう二人とも」 「…こんにちは」 「ごきげんよう、鷹宮会長」 「おい、真藤」 満面の笑みで挨拶をしてきたのは、天下の生徒会長様、鷹宮さんだった。 さすがに俺は同じように「ごきげんよう」だなんて言えなくて普通に挨拶をしたのに、真藤の方は無表情で「ごきげんよう」なんて言うものだから、焦って腕を叩いてしまった。 そしたら不満そうに睨まれる始末 。 俺が悪いのかよ!この中で一番まともな感覚を持ってるのは絶対に俺だろっ。 「二人でデート?」 「そんなわけないでしょう。あっちに、あと二人います」 意味のわからない言動をすぐさま訂正し、いまだに出てこない薫と前嶋の存在を指で指し示すと、ちょうど二人の姿がショップの入り口付近でウロウロしているのが見えた。 それを見て納得したように頷いた鷹宮さんは、時折「コホッ」と小さく咳き込んでいる。 風邪かな? 一見体調が良さそうに見えるだけに、突然脈絡もなく「大丈夫ですか?」とも聞きづらい。 だから、気にはなるけどあえて言葉にはしなかった。 「会長は一人ですか?」 「いや、あっちに連れが二人いるよ」 真藤の質問に自分の背後を親指で指した鷹宮さんは、チラリと腕時計で時間を確認してから「あ~ぁ」と残念そうに肩を落としている。 「本当はお昼を一緒にとりたかったけど、しょうがないな…。四人とも変な輩に絡まれないようにね」 そう言って俺の頭をひと撫でし、来た道を戻っていった。 「…相変わらずだな」 「…マイペースだね」 いったい何だったんだ…。 真藤と二人、目を瞬かせて鷹宮さんの消えた雑踏を見つめた。 その後しばらくしてから、ようやく薫と前嶋が店から出てきた。 あれだけの時間をかけていたのに、前嶋は1つも買い物をしなかったようで、手には何も持っていない。 たぶん薫に邪魔されたんだろう。どこまでも不憫な奴だ…。 「そういえば、さっきチラッと見えたんだけど、そこに会長いなかった~?」 「よくわかったな。ちょうど通りかかったみたいで、少し話をしてすぐにどこかへ行っちゃったよ」 そう答えたら、少しだけ残念そうな表情を浮かべた。 意外にも、薫は鷹宮さんの事がお気に入りらしい。 あのマイペースなところがツボなんだとか…。以前、そんな事を言っていた事がある。 そのマイペースさにいつも振り回されている俺にしてみれば、ちょっとよくわからない感覚だ 「あ~腹減った~!飯食いに行こうよ。俺もう倒れそう…」 薫に弄り倒された前嶋が情けない顔で提案してきたところで、真藤ともそんな話をしていたからちょうどいいと、四人で近くのカフェへ向かった。 「今日は買いたかった物もたくさん買えたし、楽しかったね~」 17時過ぎ。 寮部屋に向かう途中の廊下で、とても満足したらしい薫がご機嫌な様子で荷物を振り回している。 確かに、欲しかった服も買えたし午後からは観たかった映画も観れたし、本当に楽しかった。 なんだかんだ言いつつ前嶋も真藤も楽しかったみたいで、珍しく二人の会話が盛り上がっている。 アクション物だった映画の内容が二人のツボを突いたらしく、さっきからずっとその話題だ。 そうこうしているうちに、部屋の前に到着。 「それじゃ、また」 部屋の位置的に、いちばん最初に離脱する事になった俺に、 「また行こうなー!」 「今度は二人っきりで行こうね~」 「お疲れ」 それぞれの性格がはっきりとわかる三者三様の挨拶に、思わず吹き出して笑いながら部屋に入った。

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