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学園生活Ⅱ-47

†  †  †  † 休みの明けた月曜日。 テスト期間も終了したという事で、今日は久し振りに鷹宮さんの手伝いで生徒会室へ行く。 相変わらず秋とは当たり障りのない会話しかなく、授業の終わった後に部屋へ帰るのが憂鬱になっている俺には、鷹宮さんの手伝いはいい気分転換になる。 気分転換で仕事を手伝われる方は、たまったもんじゃないだろうけど…。 生徒会室の扉をノックして、いつものように静かに開けた。そしていつものように、奥の席に座っている鷹宮さんに挨拶を…、 …するはずが、そこに鷹宮さんはいなかった。 その代わり、いつもはサボり気味で、忙しい時以外生徒会室に姿を現さない副会長、夏川先輩の姿がそこにあった。 「あれ?先輩がこの時間にここにいるなんて珍しいですね」 「本当にそれな」 「………」 あっさり肯定されてしまうと、それはそれで複雑だ。 この人にはもう何も言うまい…。 なかば諦めた気持ちで、机の縁に浅く腰をかけている先輩の前まで歩み寄る。 「今日は鷹宮さん、遅くなるんですか?」 「そう、それがこんな時間に俺がここにいる理由」 「はい?」 ニヤリと笑う相手に、どこか嫌な予感を感じる。この人がこういう笑い方をする時は、大抵ろくな事じゃない。 警戒しながら次の言葉を待つ俺の耳に届いたのは、意外な内容だった。 「アイツ、昨日から風邪で寝込んでて今日は授業を休んでる。だから生徒会もお休み」 「寝込んでるって…、大丈夫なんですか?」 そういえば、土曜日に街で会った時に咳き込んでたな…。やっぱりあの時、体調が悪いのかどうか聞くべきだったかもしれない。 後悔の念に駆られて眉を顰めると、それを見た先輩が1つの提案をしてきた。 「あまり大丈夫じゃなさそうだけど、京介は人に弱みを見せるのが嫌いだからな。…って事で天原、お前これから看病に行ってこい」 「はい。……って、え!?俺がですか!?」 「なんだ、嫌なのか?」 「嫌とかじゃなくて、俺が行っても鷹宮さんの邪魔になるだけなんじゃ…」 「あ~、そうかもな」 「……先輩…」 …自分で言っておきながらそれはないだろ…。 相手が先輩とはいえ、あまりといえばあまりの反応に愛想笑いさえする気が起きない。 でも当の本人は、そんな俺の無表情なんてどこ吹く風とばかりに鼻で笑っている。 「…わかりました。これで俺が鷹宮さんに怒られたら先輩のせいにしますからね」 「あぁ、好きにしろ。絶対にアイツは怒らないから」 長年の付き合いからくる自信なのか、断言する先輩に溜息混じりで了承すると、早く行けとばかりに片手をヒラヒラと振られ、追い立てられるように生徒会室を後にした。 寮棟の6階。ここは三年生専用の階だ。 心なしか自分達の学年の階よりも静かで、さらに初めて足を踏み入れる事もあって少しだけ緊張する。 目指すは625号室。 「ここが620って事は…、あ…あった」 扉のプレートに<625>の数字。 でも、…看病ってどうすればいいんだ? 家族が風邪をひいても、基本的に家政婦さんか母が看病をしていたから、いざ自分がするとなるとどうしていいかわからない。 何が必要かもわからなかったからとりあえず手ぶらで来たけど、…とにかく様子を見てから考えよう。 多少の不安はあるものの、意を決して部屋のチャイムを鳴らした。 暫くたって目の前の扉がゆっくりと静かに開き、鷹宮さん本人が姿を現した。 「はい…、って、あれ?深君?」 「こんにちは」 「こんにちは、どうしたの?…あぁ、まぁいいや、とりあえず中へどうぞ」 「あ、え…はい。すみません、お邪魔します」 …どういう事だろう…、いつもと変わらない鷹宮さんに見える。 夏川先輩が「風邪で寝込んでる」なんて言ったから、もっとフラフラしてるのかと思ってたけど…。普通に私服だし普通に元気そうだ。 とても寝込んでいたとは思えない様子に戸惑いながら、導かれるままに部屋へ入らせてもらった。 「あれ?もしかして先輩、一人部屋ですか?」 リビングに入ってすぐに気づいたのがそれ。奥の壁際に設置されている机が1つしかない。 「うん、二人部屋だといろいろ問題が起こりそうだからって、高等部からは一人部屋になった。深君が来る前は黒崎もそうだったよ」 「……あ…、そうか…」 そういえばそうだったと納得している途中で、ハッと我に返る。 違う、そうじゃないだろ。 「あの、鷹宮さん?」 「ん?何?あ、コーヒー飲む?」 「あ、はい、すみません。………じゃなくて!」 気を抜くとどこまでも鷹宮さんのペースに乗せられてしまって、話が先に進まない。 言葉通りにキッチンにコーヒーを淹れに行こうとする鷹宮さんの腕を、遠慮なく横から掴まえた。 この際、失礼だとかなんだとか言ってられない。 突然腕を掴まれて、さすがに鷹宮さんもビックリしたように瞬きをしてこっちを振り返った。

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