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冬休み4

「咲哉の事が嫌いなんじゃないっ、それどころか好きだよ!でも!こういう事をしたいわけじゃない。俺の咲哉に対する好きは、そういうんじゃなくて!」 「そんな言葉はいらない」 「…ッ…!」 強引に脱がされたジーンズと下着が膝下に絡まり、咲哉の手が自身に直接触れる。 熱く大きな手に包み込まれて緩やかに動かされるその刺激に、もう、声は抑えられなくなった。 「ん…っ…、フ…ぁ…あ…!やッ…もう…ンぁ…!」 嫌なのに…、こんなこと咲哉としたくないのに…、体が言う事を聞かない。 「気持ちいいだろ?…ほら…、もう濡れてきた」 先端を指先で何度も抉るように擦られ、ビクビクっと腰が跳ね上がる。 一際強く擦りあげられた瞬間、その刺激に耐えられなかった俺は、大きく背を反らし咲哉の手に白濁の欲望を放ってしまった。 「ぁあッ…、…っ…ンぁ…」 一気に脱力し、ベッドにぐったりと身を沈める。 荒い呼吸のまま咲哉を見ると、俺に視線を向けたまま、手に付いた体液をいやらしく舌で舐め取っているところだった。 その卑猥な光景に思わずギュッと目を閉じる。 「深…、目を閉じていてもいいが、そんな余裕はすぐになくなるぞ」 その言葉に目を見開いたと同時に、片膝の裏に差し込まれた咲哉の腕に足を思いっきり開かされた。 「やめ…ッ…!」 左足の膝を曲げられ、腿が下腹に付くほど持ち上げられるという、ありえないほど恥ずかしい体勢に悲鳴のような声が出てしまう。 もう片方の足を寄せてなんとか閉じようとしても、足の間に割り込んでいる咲哉の体があるせいで、それは叶わない。 助けを請うように咲哉の顔を見ると、額から汗が滲み出ているのが見えた。それが壮絶に色っぽくて声を失う。 …本当に…止められないのか? 物心付く小さい頃から一緒に遊んでくれた相手。どんな時でも、皮肉を言いながらも、最終的には絶対に手を貸してくれた。意地悪を言いながらも、俺が本当に困ってる時は何も言わず助けてくれた。 表面だっては見せない咲哉の優しさを、きっと俺は誰よりも知ってる。 好きだよ、好きに決まってる!…だけど、同性っていうだけでも問題なのに、俺達は血の繋がった従兄弟で…っ。 心が悲鳴を上げる。 なんとか思い留まってほしくて、どう言えばいいかわからないけど、とにかく言葉にしたくて口を開いた、その時。 「…っン!」 開かされた足の奥の後孔に、俺の放った体液を絡ませた咲哉の指がグッと入り込んできたのを感じた。 反射的に体を頭の方へずり上げて逃げようとしても、腰を掴まれて引き戻される。 解すように動かされる指に、体が震える。 「逃げるな、深」 「無…理だ…っ、咲哉!」 「深…、愛してる」 「…っ…咲哉!!」 指を増やされて開かれていく後孔。 クチュリと鳴る湿った音と同時に耳に入ってきたのは、苦しそうでいて低く囁くような咲哉の告白だった。 …愛してるって…、どうして…。 抵抗の動きが止まる俺をどう思ったのかはわからないけど、一瞬俺の顔を見つめた咲哉は、次の瞬間に後ろの窄まりから指を抜いた。 代わりに質量のある熱く硬いモノが触れる。 あぁ…、本気でするつもりなんだ…と。ここにきて、これが冗談でも脅しでもなく本当なんだと…、わかった。 自分でも何故こんなに哀しくなるのかわからない。寂しくて苦しい。そんな思いが涙となって目尻から零れ落ちる。 これでもう、俺と咲哉は今まで通りじゃなくなるんだ…。 そう思ったら、もう涙を止める事ができなくなった。 諦めに、体の力が抜ける。 …咲哉を…失ってしまう…。 「…ッふ…ぅ…っ」 「……深…」 不意に咲哉が身を起こした。俺に覆いかぶさっているのはそのままに、開かされていた足を拘束していた手も離れる。 「…さ…くや…?」 涙に歪む視界のまま目の前の相手を見上げると、そこには、何か痛いものを堪えるように眉を寄せた咲哉の顔があった。 まるで、今にも泣きそうな顔…。こんな咲哉は初めて見る。 「ど…して…」 突然離れた意図がわからなくて問いかけた瞬間、また目尻から涙が伝いこぼれた。 こめかみまで伝ったそれを、そっと近づいた咲哉の舌が舐め取る。 そして、また顔を離して俺を真上から見た咲哉は、困ったようで泣きそうな…切ないともいえる表情で小さく笑みを浮かべ、 「…いくらなんでも、…そんなふうに泣かれたら、手を出せないだろ…」 そう、呟いた。 「…咲哉…」 「喚いても叫んでも罵ってくれてもいい。…だが…、そんな風に声を殺して泣かれるのは…、キツイ…な…」 さっきまでの熱情のような色はもうなくなっている。今あるのは、ただただ苦しそうな色だけ。 頭がついていかなくて、茫然と咲哉を見つめる事しかできない俺の額に、優しく唇が押し当てられる。 「もう…何もしないから、そんな風に泣くな」 「咲哉…」 「………ただし、約束は守ってもらうぞ」 「え?」 「休み明けから、お前には一人部屋に移ってもらう。…それだけは譲るつもりはない」 「………」 まるで嵐のような出来事に感情が麻痺してしまったのか、その言葉に反抗する事ができなかった。 口を閉ざしたままひたすら真上にある咲哉の顔を見つめていると、もう一度だけ視線が絡まり、そして何かを堪えるように一瞬目を閉じた咲哉がゆっくりと離れていく。 汗の滲む体に冷やっとした空気が触れた瞬間、夢から覚めたような気がした。 ボーっと見つめる視線の先では、咲哉が服を着て身なりを整えはじめている。 横になった状態でずっとその姿を眺めていると、来た時と変わらぬ様子に戻った咲哉が座っていたベッドから立ち上がった。 「…深…」 「…なに?」 「今回の事を、俺は謝るつもりはない。…だが…、お前に言った俺の気持ちに嘘はない」 「…っ…わかった…」 事の最中に言われた『愛している』という言葉が耳に蘇って、顔が熱くなる。 朱の気が上った事に気付いたらしい、俺を見下ろす咲哉の目元が柔らかくほころんだ。 少し身を屈めて手を伸ばしてきたかと思えば、前髪を指先に絡めて横に流される。 「冬休み中に、荷物の整理をしておけ」 「………」 言葉を返せず黙ったままだったけど、咲哉はそれ以上何も言わずに部屋を出て行った。 「…咲哉…」 扉が閉まり、その姿が見なくなった途端にゆるゆると吐息をこぼす。 仰向けになったまま、両手で顔を覆って目を閉じた。

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