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第六章 学園生活Ⅲ-1

†  †  †  † 「…~であるからして、学年最後の学園生活を、気を引き締めて過ごすように。以上」 始業式。 講堂で整列している全校生徒を前に、相変わらずの教頭の長い訓辞がようやく終了した。 あちらこちらから疲れたような溜息が聞こえてくる。 聞いてるだけなのに疲れるってどういう事だ。 例に漏れず、今日の始業式も講堂に直接集合のおかげで、まだ真藤や薫とは挨拶しか交わしていない。これも毎度の事。 いつもと違うのは、今日俺が講堂に来る前にいた場所が、冬休み中に変更になった新しい寮部屋だったという事だけ。 朝、誰とも会話をする事なく部屋を出ると言うのが少し寂しく感じたけれど、それにも暫くすれば慣れるだろうと、なんとか自分の中で折り合いをつけた。 このあと教室に行けば、久しぶりの顔合わせで色々と話が盛り上がるだろう。こんな沈んだ気分もすぐに浮上するはず。 そんな事を思ってボーっと立っていると、一瞬、講堂内に静寂が訪れ、その直後に生徒達から歓声が沸き起こった。 な…、なに…? 皆、前方に視線を向けている。 それにならって視線を向けた先に、何故か生徒会役員全員が壇上に立ち並んでいる姿があった。 今の生徒会役員は、鷹宮さんと夏川先輩以外は9月の選挙で入れ替わっている。 本来ならば3年である2人も早々に任期が終了しているはずなのに、生徒達の熱い要望によって任期が延長し、今日に至っている。 もう大学の進路が決まっているはずの二人。いったいいつまで自分達の時間を犠牲にする事になるのか…、俺の中では結構心配していたりもした。 そうこうしているうちに、他の役員よりも一歩前に出た鷹宮さんが、壇上に設置されているマイクで新年の挨拶とともに話をはじめた。 「新年明けましておめでとうございます。皆さん、良いお正月を迎えられましたか?式の終わりになって、突然僕達がここに立った事を驚いていると思いますが、今日は重要なお知らせがある為に、先生方の許可をとって時間をもらっています」 そこで一旦言葉を区切る鷹宮さん。少しマイクから離れて、すぐ後ろにいる夏川先輩と一言二言何かを相談した後、すぐにまた前に向きなおった。 生徒は全員、真剣な面持ちでそれを見守っている。 「…たぶん皆さんもわかっているとは思いますが、僕と夏川は、本来なら任期が終了しているにも関わらず、今日まで会長・副会長としてやってきました。が、それも今日、この場で終わりとなります」 講堂内を見渡して言い放った鷹宮さんの言葉に、一瞬どよめきが起こった。 そろそろ役員を交代しなければいけない事は頭ではわかっていた。でも、実際に鷹宮さんが会長じゃなくなるという事を、信じられない自分がいるのも確かだ。 そして、何年も鷹宮さんを見ている皆の方が、その思いは強いだろう。 聞いた話によると、どうやら鷹宮さんは異例中の異例の人材だったらしく、中学一年生からずっと生徒会長という役割についていたらしい。 幼稚舎、もしくは小等部から一緒にいる皆にしてみれば、鷹宮さん以外の生徒会長なんて想像できないだろう。 でも、これでようやく二人の肩の荷も下りる…。 少しでも自分の時間が作れるだろう二人の事を考えると、ちょっとだけホッとする。 それにしても、それが今のこの状況とどう関係するのかがわからない。 ただの挨拶だけにしては、なんだか物々しい雰囲気だ。 それを皆も感じ取っているらしく、先程までのざわめきが徐々におさまっていく。 講堂内が静かになると、それを見てとった鷹宮さんがその口からとんでもない爆弾発言をかましてくれた。 「僕達が退くという事で、今日この場で新しい生徒会長と副会長を任命したいと思います。名前を呼ばれた者に拒否権はありません」 言い終わると同時に、華やかな鷹宮さんスマイル。 もう誰にも逆らえない状態だ。 普通は選挙で決めるはずなのに、凄いな…。 指名された人間が会長職をやりたいと思っているなら問題は無いだろうけど、そうじゃないなら拒否権もないなんて最悪もいいとこだ。 皆が固唾を飲んで見守る中、鷹宮さんが指名する生徒の名を上げた。 「副会長には、2年の前嶋芳明」 その名前に講堂内から歓声があがる。俺達のクラスなんて大爆笑だ。 後ろを振り返ると、口をパカッと開いて固まっている本人がいた。 真藤はニヤニヤ笑ってるし、前嶋と仲が良い藤沢なんて笑い過ぎて床にしゃがみこんでいる。 もちろん俺も腹を抱えて笑ってしまった。 本人の性格を考えると、本気でショックを受けている事は間違いない。 可哀想だとは思うけど、拒否権が無いと言われている以上、もうどうにもならないだろう。 皆が騒いでいる中、また鷹宮さんの声が響き渡った。 次はいよいよ会長職の指名だ。さすがに講堂内に緊張がはしる。 「…そして、今期の生徒会長に任命するのは」 そこで一旦言葉が区切れた。 どうしたんだ?と鷹宮さんを見ると、 …え……? 何故かバチッと視線が絡み合った。 …な…に…? 目が合った瞬間ニヤリとした笑いを向けられたような気がしたけど…、気のせいだよな…。 なんだか超絶にイヤな予感がする。 ドキドキと脈打つ胸を片手で押さえて、鷹宮さんの次の言葉を待つ。 「もう一度言うけど、拒否権は一切無いからね。…同じく2年の、天原深。キミを会長に任命する」 なん…だって…!? 一瞬静まり返った周囲。 その直後にドッと大歓声が湧き起こった。クラスメイトにバシバシと肩やら背中を叩かれる。 「お前なら大丈夫!」 「さすが天原!」 そんな声が耳に届く。 でも俺は茫然自失状態。 …まさか、冬休み前まで鷹宮さんの仕事を手伝わされていたのって、…この為だったのか…。 ようやく全てが繋がった。 夏休みが終わって、俺が天原直系の人間だとバレてから、家柄重視の人間はほとんどが好意的になった。だからこそ、俺が会長になってもそんなに文句は出ないのだろうけど、俺自身の中では全く納得ができていない。 …っていうかしたくない! 家柄だけで納得されるのもイヤだけど、鷹宮さんはそんな事で指名する人ではないから、本当に俺の能力を見て言ってくれたのだろう事はわかってる。 あんな凄い人に認められるなんて、信じられないくらいに嬉しい。 でも! 「絶対無理!!」 大騒ぎしている皆の中心で、大声でそう叫んだ。

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