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学園生活Ⅲ-7

Side:・・・ 消えてしまえばいいと思ったんだ…。 アイツさえいなくなれば…って。 僕の日常からいなくなればいいのに…って…。 …苦しくて苦しくて…、自分がどうにかなりそうで…。 もう、こんな辛いの耐えきれなくて、咄嗟に体が動いた。 落ちていくアイツの姿。心臓がギュッと痛くなった。 …いま…ぼくは…なにをした…? 耳に入った周りのざわめきと、誰かの怒った声。 目の前から消えたアイツの姿。 …消えたのに…、これを望んだはずなのに…。 ノゾンダノハ…コンナケツマツジャナイ… 頭の奥からそんな声が聞こえてきて、どっと涙があふれ出した。 周囲が全て真っ白に覆われて、体の力が抜ける。 真っ白な世界の中、誰かが目の前に立っている事に気づいて顔を上げると、そこには穏やかに微笑んでいるもう一人の僕がいた。 『やっと憎い相手がいなくなるね!よかった!』 (…違う…、違う…) 『これでようやく、目障りな存在に煩わされる事もなく、楽しい毎日が戻ってくる』 (…楽しい…毎日…。……ほんとうに…?) 『お気に入りの彼らともっと仲良くなって、彼らの特別になるんだ。もう子供じゃないんだから、自分の欲しいものはどんな手を使ってでも手に入れないと!』 (そう、子供じゃない…。…子供の頃は、こんな気持ちを持ったことなんてなかった…) そう呟いた瞬間、幼い頃からの思い出が走馬灯のように流れだす。 いつもいつも仲良く遊んでいた友達。家柄とか何も関係なく築いていた、打算や妬みや嫉妬などない人間関係。 (……幸せ…だったな…。すごく、楽しかった…) 立場とか、優越感とか…、そんなのが欲しかったわけじゃない。 お互いに大切に思える友達とか、お互いに好きだと言い合える恋人とか、ただ、普通の幸せが、ほしかったんだ…。 両目から滝のように涙が溢れだした。 嫉妬にまみれて、常に人を見下して、心からの信用も信頼もない…。 なんで、こうなっちゃったんだろう…。 目の前にいるもう一人の僕が、優しく微笑んで手を伸ばしてくる。 『………そうだね、ぼくが本当に望んでたのは…、こんなモノじゃない』 (苦しかった…。独占欲とかプライドとか嫉妬とか…。そういうの、凄く苦しかった…) 『…うん…。そんな感情、持ちたくなかったね』 (そういう気持ちにさせる奴を蹴落とせば、少しの間、心が穏やかでいられたんだ…。だから) 『そう。だからアイツを突き飛ばした。これで苦しみから逃れられると思って。………でも、本当は?』 (…本当は…、…心のどこかで、自分が間違ってるって…) 『うん、気づいてた。気づいてたけど、認めたくなかった』 (だって、どうすればいいかわからなかったんだ…っ。…人を妬むのも、人に嫉妬するのも苦しくて苦しくて!だから自分の思い通りにしたくて!) 『…そういうのがなかった、子供の頃に戻りたいね』 (…戻りたい…。醜い感情を持っていなかったあの頃に…戻りたい…) 『…少し…休もう』 (………うん) 差し出された手を取って頷いた瞬間、最後の涙がポタリ…と頬を伝い落ちる。 まるで心の淀みが浄化されるような心地良さを感じたと同時に、意識がスーッと何かに溶け込んでいった。 (……ごめん…なさい……) Side:・・・end

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