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学園生活Ⅲ-27

†  †  †  † 卒業式が終わり、週が明けた月曜日。 いまだに、鷹宮さんや夏川先輩がこの月城からいなくなってしまった実感を持てないでいる。 朝のHR前のざわついた教室内で席に座り、ただひたすら一人でボーっと窓越しの外を見つめた。 「……魂抜けかけてるよね、あれ」 「いや、抜けかけてるというより、もう無いんじゃないか?」 「えっ、じゃあアレって脱け殻なの!?」 「あぁ、脱け殻だな。たぶん触るとカラカラに干からびて、」 「おい…、俺は虫かっ!」 横から聞こえてくるフザケた会話に我慢できず、机をバシッと叩いて立ち上がった。 途端に真藤と薫が揃って顔を背ける。 …殴りたい…。 拳を握り締めて二人を見つめ、にっこり笑いかける。 チラっとこっちを振り返った薫が、俺のそんな様子に気づいてまた慌てて顔を背けた。 どうしてやろうかと仕返しを考えるも、この二人と闘っても最終的には自分が負けてしまう事をこれまでの経験上で思い出せば、諦めの溜息を吐いて大人しく椅子に座るしかない。 俺が溜息混じりに席に着くと、二人はまるで何事もなかったかのように姿勢を戻し、こっちに向き直ってニヤニヤと笑みを浮かべる。 変わり身早すぎだろ。 「…なに」 「べ~つ~に~。ねぇ、要ちゃん」 「あぁ、別に何も…。って、おい、宮本」 「ん?」 「その呼び方やめろ」 あっという間に真藤VS薫の闘いが始まる。 冷静な真藤をからかうように、尚も余計な言葉を吐きまくる薫。 そんな二人を尻目に、今度こそ机の上にぐったりと凭れかかった。 …そうだよなー、よく考えてみれば、携帯の番号だってアドレスだって知ってるし、ローゼンヌの日本公演の時は招待席のチケットを必ず送ってくれるって言ってたし、これは別れってわけじゃないんだ…。 連絡をとろうと思えば今すぐにでもメールを送れる事を考えれば、悲しくなんてない、…よな…。 「…よし!!」 勢いよく上半身を起こし、更にはさっきと同じように机をバン!っと両手で叩きながら立ち上がった。 クヨクヨするな!男らしくいけ! 腹に気合を入れて拳をグッと握り締める。 「…またこのパターンだよ要ちゃん…」 「あぁ、復活したみたいだな。…って、だからその呼び方はやめろ」 「こうやって自力で復活しようと頑張るところが深君だよね~、要ちゃん」 「自分じゃ弱いと思ってるらしいが、じゅうぶん強いよコイツは。……その呼び方やめろって言ってるだろ」 横からボソボソと聞こえるやりとり。 振り向いた先では、真藤と薫が目からバチバチと火花を飛ばしそうな勢いで睨み合っている姿があった。 「まだ喧嘩してるのかよ…。いい加減にすれば?」 呆れて言えば、何故か二人から物凄い勢いで睨まれる。 なんでだよッ。 後でよくよく考えたら、二人がこうなった事の発端は俺の情けない態度によるものだった事を思い出したけれど、気合いを入れて心機一転し、ようやく気分が浮上してきた今の状態では全くそれに気付けなかった。 たぶん二人とも「誰のせいだよ!?」と言いたかったに違いない。 鈍くてごめん…。 †  †  †  † 三年生がいなくなった月城学園内は、全校生徒の三分の一の人数が減った事もあり、どこか精彩を欠いているように感じる。 でも、その状態もあと一か月もすれば元に戻る。四月からは新入生が入るからだ。 「終業式。離任式。入学式に始業式、…か…」 金曜日の授業が全て終わった放課後、生徒会室に入って早々にもう帰りたくなった。 生徒会顧問が置いていったのか…、机の上にはこの一ヶ月弱の間にある式典の資料がドサッと山のように積まれている。 「何ブツブツ言って…、うはッ」 俺の手元にある資料を横から覗き込んできた前嶋も、内容がわかった途端に呻き声を発した。 そんな俺達を、何故か微笑ましい表情で見ている他の役員三名。 頼もしいのかノンビリしているのか…、いまだによく理解できない。 「終業式と始業式と離任式は、手を抜いてもいいんじゃないか?」 会計を受け持つ同じ二年の中原信二が軽い口調でそう言うと、 「え…、それじゃあ在校生はともかく離任する先生が可哀想ですよ」 一年の書記、管野原祐がその可愛らしい顔を顰めて反論する。 「どっちにしろ、手抜きはダメです」 結局最後に、一年のもう一人の会計である若林慎太郎が相変わらずの若武者振りを発揮して正論を放ち、話し合いは終了。 最近の生徒会役員のやりとりはだいたいこんな感じになる。 若林がいなかったらいったい今期の生徒会はどうなっていたんだろう…、と思ってしまう程しっかりしている後輩。 頼もしい以外の何物でもない。 「若林の言う通りだな。これが終われば少しは楽になるから、頑張ろう」 手に持った資料を机の上に置いて苦笑い混じりに言うと、四人から明るく肯定の返事が返ってきた。 「じゃあ菅野原は、隣の資料室から去年の分の資料探してきてくれる?」 「わかりました!」 指示と同時に軽いフットワークで隣の部屋に駆け込む菅野原。 そして今度は会計の二人に同時に指示を出す。 「二人は、4月から来年3月までの一年間にどのくらい予算が必要か書き出しておいて。後で全体の予算案をまとめて作成するから」 「はいよ」 「わかりました」 なんとも対照的な中原と若林の二人は、すぐに棚から資料を取り出して計上しはじめる。 そして俺と前嶋は、この4回ある式の段取り・進行・各役員の持ち場などを検討するべく、あぁでもないこうでもない…と話し合いを始めた。

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