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最終章~それぞれの旅立ち~6

それにしても、さっきの俺の呟きが聞こえてしまったと思われる三人の反応。 心の奥底から、緩やかな暖かさが込み上げてくる。 「…俺さ…、ここに来て良かったなって本当に思うよ」 「深君…」 「…天原…」 「………」 俺の心からの呟きに、薫と前嶋は目を見開き、真藤は何も言わずに小さく笑っただけだった。 最初はあんなに月城に来るのを嫌がって、普通高校からの編入に難を示しまくっていたけど、今となっては強引に事を進めてくれた両親と、きっかけとなった咲哉の弟である高哉に感謝だ。 「天原~~!!」 「ぅおっ!」 突然前嶋が、薫の寄りかかり壁を返上して目の前から抱きついてきた。 驚きのあまり変な声が出てしまう。 そして、その行動に遅れること数秒。今度は、そんな前嶋を薫が攻撃しはじめた。 「ちょっと!なに勝手に深君に抱きついているわけ!?は~な~れ~ろ~!!」 「か…薫ちゃん…くっ…苦しい!」 どうやら薫が、前嶋の襟首を後ろから遠慮なく引っ張って俺から引きはがそうとしているらしい。首が閉まっているみたいで、前嶋の顔がどんどん赤くなっていく。 「おい、宮本…。それ偶然にも頸動脈が絞められてないか?」 「え~?そんな偶然なんて僕のせいじゃないよ要ちゃん」 …………、怖いよ薫…。 満面の笑みで前嶋の襟首を引っ張っている薫の手首に、筋が立っているように見えるのは気のせいか?気のせいじゃないよな?…どれだけ全力でやってんだよ。 とうとう前嶋がギブアップし、フラリと俺から離れたと同時に、薫もその手を離した。 そして一仕事終えた…とばかりに、両手をパンパンっと叩き合わせて満足そうに何度も頷いている。 …これが未来の医者…。 恐れ慄いたのは、俺よりも前嶋の方が先だろう。床にしゃがみ込みながら「何があっても絶対薫ちゃんのとこには診察いかない。殺される…」そんな事をブツブツと呟いている。 それでもまだ前嶋を横から軽く足蹴にしている薫を見ても、俺と真藤は止めようとも思わなかった。 「深君はいつ退寮するの?僕はね~、もう昨日の時点で手続き取っちゃった」 教室を出て昇降口に向かう途中の廊下で、薫が思い出したように聞いてきた。 前嶋は家が近いらしく、自由登校になった時点で退寮手続きを取ったとか。 真藤がどうしたのかはまだ知らない。 俺は、といえば…。 「今日これから手続きしにいくよ。寮管のおじさんとこに寄ってから部屋に戻るつもり」 そう答えると、横を歩いていた真藤がチラリと視線を向けてきた。 「俺も今日退寮手続きを取るつもりだった」 同じだな…と肩を竦めて笑う真藤に、何も言わず笑い返す。 そして、そのまま家に帰るという薫と前嶋とは寮棟の前で別れ、真藤と二人、仲良く寮管部屋へ向かった。 「次に会うのは卒業式…か」 おじさんから書類を受け取り、その場で必要事項を記入して提出してから寮管部屋を出た直後、耳に入った真藤の言葉に、歩き出そうとしていた足が止まった。 なんだろう…。なんとなく、真藤がそういう事を言うとは思わなくて驚いたのかもしれない。 「真藤がそんな感傷っぽい事言うなんて…珍しいな」 「そうか?……あぁ…そうかもな…」 苦笑しながら歩きだした真藤の後に続いて、止まっていた足を動かす。 「お前が来てからのこの二年弱は、かなり強烈だったからな」 「強烈って…」 さすがに絶句。 思わず目を見開いた状態で真藤を見つめると、それが可笑しかったのか喉の奥でクツクツと笑われてしまった。 「楽しい高校生活が送れた…、ような気がする」 「なんだよその不確定要素たっぷりの言葉は」 「はいはい、天原のおかげでとても楽しかったですよ」 「微妙に馬鹿にしたその言い方!絶対卒業式で泣かしてやるからな!」 「どう考えても泣くのはそっちだろ」 「…くっ…」 …言い返せない…。 悔しさにムスっとして真藤を睨んだ。 けれど…。 クシャリ これはもう真藤の癖だろう、歩きながらこっちを見もせずに頭を撫でられた。 詳しくは“グシャグシャ”にされた。 でも、それだけでさっきの悔しさが消えてしまった自分が単純過ぎて笑える。きっと、そんな俺の事をわかっているからこそ、いつも真藤はこうやって触れてくるんだろう。 あまり言葉には出さないこの友人が示す優しさ。 さっきは3人を前につい口に出してしまったけれど、これから先、周りの人間の力になれるような…頼られるような強い人間になりたい、と、本当に切に思う。 いつか…、いつか真藤達が困難にぶち当たった時は、今度は絶対に俺が助ける。 隣を歩く大切な友人を見て、密かに心に誓った瞬間だった。

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