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【番外編】宮本薫。宮原櫂斗との遭遇

「あれ…?あそこにいるのは…宮原櫂斗…?」 中庭の噴水に面した木製のベンチ。そこに座る一人の人物が視界に入った。 音を立てないように背後からそっと忍び寄る。 座っていてもわかる背の高さ。そして金に近い茶髪。 何よりも、ダルそうに背もたれに寄りかかって座るその態度のでかさが、間違いなく宮原櫂斗だという事を如実に物語っていた。 どこまでもらしい様子に笑いが込み上げるも、それを寸でで堪える。 …が…。 「音を立てずに背後から近づくんじゃねぇよ、おチビさん」 振り向かないままの宮原がボソッと言葉を発した。 周りをキョロキョロと見渡しても人影は一切ない。 …って事は、やっぱり俺に言ったのか…。 内心で溜息を吐く。やっぱりコイツは侮れない。 「いつから気付いてたんだよ」 「最初からに決まってんだろ。気付かれたくなきゃその物騒な気配を消してこい」 チラリとこっちを振り向いた宮原が、眉間を寄せた不機嫌な表情を隠そうともせず本気で迷惑そうに呟く。 コイツと二人で話すのに、いつもの猫を被るつもりは毛頭ない。だから素のままで近づいたけれど、物騒とまで言われるのはさすがに納得できない。 「お前に言われたくない」 「その猫もだいぶ板についたな。アンタの中学時代の素行を天原深に見せてやりてぇよ」 「…言ったら殺すぞ…」 宮原の言葉に思わず目を眇めた。 背後からベンチを回って正面に立ち、お互いに牽制するように睨み合う。 「あの頃はまだ周りも成長途中だったから、アンタの背の低さも全然目立たなかったよな。アンタがおチビちゃんのままで助かったと思ってる奴は五万といるだろ」 そう言ってクツクツと喉の奥で笑う相手に「ハァ」と深く溜息を吐いた。 コイツに何を言っても『暖簾に腕押し』だ。肝が据わりすぎているせいで脅しも睨みも効きはしない。 「どうせお前はその五万の内に入ってないんだろ?人が大人しくしてれば好き勝手しやがって…。…これから先、もし深を泣かすような事があれば容赦しないからな。それだけは覚えておけ」 「…まぁ、違う意味で啼かすかもしれねぇけどな?」 挑発的に下唇をペロリと舐めながら言った宮原の姿に、怒りよりも先に脱力感に襲われた。 …やめた…。相手にするだけ疲れる。 なんで声をかけてしまったのか…。 自分の行動に後悔を覚えて、何も言わず踵を返した。 背後から聞こえる微かな笑い声を無視して歩き出す。 …どうかアイツの毒牙に引っかかりませんように…。 心の内に深の姿を思い浮かべ、本気で空に願ってしまった。

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