199 / 226

【番外編】夏川桐生。鷹宮京介との出会い

春麗らかな昼下がり。 月城学園小等部の廊下を歩いている途中、俺はそいつと擦れ違った。 「夏川くん、今度うちに遊びに来てよ。お母様がぜひって言ってた」 「そうだね、その内に遊びに行くよ」 『その内に』という曖昧な言葉はないのと一緒。 それでも、ニッコリ笑って返した言葉を信じたらしいクラスメイトは、嬉しそうにキャーキャー騒いでどこかへ行ってしまった。 『可愛気がない子供』 『子供らしくない子供』 大人達のそんな評価が聞くともなしに聞こえてくるこの頃。 俺が出会ったのは、そんな俺よりも更に子供気のない奴だった。 小学校一年生である俺が“子供気ない”なんて言うこと自体おかしいけれど、でも、それ以外に言いようがないんだからしょうがない。 「あ…鷹宮くんだ。いつ見てもキレイだよね~」 そんな周りの声に視線を向けると、斜め前から誰かがやってくる姿が見えた。 それが、これから先、俺の生涯の友になる相手だとは…、この時には全くもってわかるはずもなく。 緩くウエーブのかかった漆黒の髪。無表情っぽいのに、何故か微笑んでいるように見える優しげな顔。 普通に見ると、優しそうな王子様みたいな奴。 でも、俺にはわかった。 アイツはクセモノだ…と。 名前は、鷹宮京介。幼稚舎からの有名人だ。 有名人なわりに、家柄や背後関係は誰にもわからないらしい。 噂では、かなりの有力者の家の子だと言われている。 …まぁ俺には関係ないけど…。 どうせ権力にものを言わせてちやほやされている猿山の大将だろう…。そう思っていた。 この時までは。 「あれー、おっかしいな…」 放課後。家の車が迎えに来るまでの間、少しの時間を利用して図書室に来ていた。 どうしても読みたくて探していた本が、ここにあると先生に聞いたからだ。 でも、探しても見当たらない。 もしかしたら先生の勘違いかもしれない。 諦めの境地に辿り着いた時。 「どうしたの?」 背後からかけられた優しい声に振り向くと、相変わらず数人の友人に囲まれている鷹宮京介が後ろに立っていた。 これまで話した事がない相手だっただけに、さすがに驚きを隠せない。 「あぁ…、うん。探してる本が見つからない」 俺の言葉に少し考える素振りを見せた鷹宮は、何を思ったのか突然周囲の奴らに、 「僕、夏川君を手伝うから、みんなはもう帰っていいよ」 そう言って、友人達を帰してしまった。 友達よりも見ず知らずの俺の方を選ぶなんて、何を考えてるんだ? 少しだけ警戒する。 「…別に手伝ってくれなんて言ってない。友達、気分悪くするんじゃないのか?」 「大丈夫だよ。彼らは友達じゃないから」 「…は…?」 この時の俺の気持ちをどう表現すればいいのか…。 いつも一緒にいるのに友達じゃないって、どういう事だ? 彼らが京介の「友達」じゃなく、権力に媚をうって無理矢理付き纏っている“とりまき”だと気付いたのは、これよりも更に後の事。 でもこれが、鷹宮に対して初めて関心を持った瞬間だった。

ともだちにシェアしよう!