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【番外編】真藤要と宮原櫂斗
昼休み。
クラス委員として職員室に行った帰りに真っ直ぐ教室へ戻らなかった事が、真藤要の運の尽きだった。
まだ少し時間があるから中庭を通ってみようか。
そんな軽い気持ちで久しぶりに中庭を訪れると、相変わらず欧州庭園としか思えない風景が目の前に広がる。
いまだ空気は冷たい季節だと言うのに、寒さに強い種類を植えてあるのか、控えめではあるが美しい花々がそこかしこで咲き乱れている。
空気の冷たさの割には日差しが強い。これなら多少ここで時間を取っても凍えることはないだろう。
そう判断し、中庭奥の噴水周りに設置してあるベンチを目指してゆっくりとその歩を進めた。
………豹が寝てる…。
向かった先のベンチで寝ている人物を見て、いちばん最初に思ったのがそれだ。
細身の割には引き締まった身体。たぶん実用的な筋肉しかつけていないのだろう。
陽に透けて金色に見える茶色い髪。普段は突き刺さりそうな程鋭く強い眼差しも、寝ている今は閉じられていて、いっそ穏やかとも言える。
真藤の中にあるこの人物のイメージは“野生の豹”だ。
熟睡しているように見えても、きっともう少し近づけばすぐにその目を覚ますだろう。
なんとも言えない微妙な緊張感に、なんとなくの好奇心も手伝って足を進めた。
「……なんだ…、つまんねぇ…」
起きた最初の一言がこれ。それも真藤の顔を見た瞬間の言葉。
失礼極まりない。
それでも真藤は怒る事もなく、その顔にニヤリとした笑みを浮かべた。
「天原じゃなくて悪かったな」
「本当にな」
宮原櫂斗のあまりに率直すぎる言動が面白く、真藤は声には出さずにクッと喉の奥で笑いを零した。
「先輩を敬う心なんて全く以って無いだろ、お前」
「そんな小さな事に拘る奴かよアンタが」
「よくわかってるな…」
感心したように呟くと、フッと鼻先で笑われた。
何を今さら…といったところか。
「こんな所で寝てるくらいなら、天原の所に行こうとは思わないのか?」
揶揄い混じりの言葉に、宮原の片眉がピクリと引きあがる。
「……真藤さん、アンタ俺の事ストーカーか何かと勘違いしてるだろ」
「いや、そうは思ってない」
本当にそんな風には思っていないのに、今度は短く溜息を吐かれた。
そして、次に告げられた言葉を聞いて、真藤が呆気に取られたのは言うまでもない。
「アイツの傍にいると勝手に手が出そうになるから近づくの自粛してんだよ。……理性が全く利かねぇ」
ハスキーな声で堂々と返され、さすがの真藤も真顔で押し黙った瞬間だった。
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