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【番外編】文化祭

「…という事で、このクラスの出し物は無難にカフェで決定。意義はないな?」 黒板の前に立った真藤が、委員長の権限を発揮して有無を言わさず決定してしまった、文化祭での各クラスの出し物。 “カフェ” そこまでいい。俺としてもそれなら許容範囲だし、月城に来て初の大きなイベントである文化祭をかなり楽しみにしている。 ここに編入する時に咲哉が、 『文化祭はかなり盛り上がる』 と言っていた事を思い出して、今日まで密かに心待ちにしていた。 していたけど! “カフェ”の前に、“コスプレ”なんて言葉が付いている時点でおかしいだろ!? 誰の意見だよこれ! 「やっぱり普通じゃ盛り上がらないもんね~。フフフ…、楽しみ~」 …薫…お前か…。 最悪な意見を出してくれた友人のニヤける姿を見て、バタっと机に倒れ伏した。 その時突然真藤が、男らしい大きな手でバシッと黒板を叩いた。 これにはさすがにビクッと驚いて顔を上げる。 「コスプレは全員強制。イヤだなんてぬかす奴がいたら………、わかってるだろうな?」 言葉の最後にニヤリと笑う真藤に、逆らえる人間なんているわけがない。 こうなったら、コスプレだけどまともな…、そうだな…、執事の格好とかそういうもので耐え凌ぐしかない…。 コスプレが全員強制となれば逃れる事はできない、それなら…、と、机に頬杖を着いて対策を考えはじめた。 「あ~、それから」 不意に真藤が、何かを思い出した様子で皆を見渡す。 何やら非常にイヤな予感がするのは気のせいだろうか。 「みんな同じような格好ばかりされてもつまらない。今から名前を呼ばれた奴は、目の保養と彩りを加える為に女装してもらう」 「「は!?」」 真藤のろくでもない提案に、数名がギョッとした声を上げた。もちろん俺も。 男が女装したって目の保養にも彩りにもならないだろ…。 目は痛くなるし色も(すす)ける事間違いなし。 何考えてんだよ委員長様は…。もう好きにしてくれ。 俺は執事の格好でいいよ。もう決めた。 深い溜息を吐きながら、グテっと机に凭れかかって頬杖を着く。 「宮本薫」 「はーい」 真藤から名前を呼ばれた薫は、何故か待ってましたとばかりの喜色声。 「井上秀介」 「俺かよ…」 いつも穏やかな井上は黒髪美人。でも今はその顔をこれでもかとばかりに引き攣らせている。 ご愁傷様。 「前嶋、」 「ぇえ!?俺!?」 「…は、冗談として」 「はぁ!?」 前嶋の反応にクラス中が大爆笑。からかった本人である真藤まで笑っている。 前嶋の女装なんて誰も見たくないに違いない。顔立ちは良いけど、いかんせん女顔からは程遠い。 「そして三人目、これで強制女装の奴は最後だな。…天原」 「……は?」 何故突然俺の名前が呼ばれたんだ? 着いていた頬杖から顔を上げて真藤を見ると、ニヤリと笑われた。 「は?じゃないだろ。お前も女装だからな。準備しとけよ」 「…………な…っ…。ふざけるな!!」 そんな俺の叫び声は、大騒ぎするクラスメイト達の声で全てかき消されてしまった。 「ほら~、早くこれ着てってば~。往生際が悪いよ深くん!」 文化祭当日。 衣裳部屋として貸し出された空き教室では、真藤&薫VS俺&井上ペアの攻防戦が繰り広げられていた。 「往生際とかって問題じゃないだろコレ!井上の衣装はともかく、なんで俺がこれなんだよ!!」 「待てよ天原。俺の方だってこんな格好したくないって!」 俺の手にあるのは、真っ白でレースがゴテゴテ着いてるロリータ服。服というより、もはやドレス。 そして井上の手にあるのは、花魁っぽい雰囲気を醸し出している着物。 ちなみに薫はミニ丈のチャイナ服だ。そしてそれはもう既に着ている。 どうして普通に抵抗なく着ているのか、俺にはそんな薫の方が不思議だ。 見た目は可愛いのに、奇怪な言動のせいですでに宇宙人にしか見えない。 「前嶋くーん。ちょっと深君を押さえててくれるかなぁ?」 「任せて薫ちゃん!!」 「え?前嶋…待っ!!」 何故か喜々として返事をした前嶋が、馬鹿力で背後から俺を羽交い絞めにしてきた。 「離せよ前嶋!この裏切り者ーっ!!」 なんとか逃れられないだろうかと暴れようとしても、何がどうなっているのか拘束から逃れられない。 あげくに、 「んふふ~、天原に公然と抱きつける機会なんてそうないから役得~」 背後でふざけたセリフが聞こえてくる。 …この野郎…、後で覚えておけよ。 ギシリと歯を食いしばって、怒りを胸の内に溜められるだけ溜めておく。あとで全てキレイさっぱり大放出するからなっ! その直後、衣装とメイク道具を抱えて目の前にやってきた薫を見て、諦めの溜息を吐いた。 「完璧~!!」 「うお~!可愛い~!!」 俺の全身を眺めてキャッキャ騒いでる猿が二匹。 その先には、グッタリと壁に凭れかかって放心状態の花魁が一名。 不憫な…、と思ったけれど、鏡に映った自分を見た瞬間、俺自身も放心状態になりかかった。 フワフワな金髪。背中まである長さのドーリーヘア。白いレースのヘッドドレス。 喉を覆い隠す長さの襟元と、レースやら刺繍やらリボンがふんだんにあしらわれた膝丈の白いロリータ服。下にはパニエとかいう物まで穿かされた。 そして足元は編上げの白いブーツ。 顔にはファンデーションを薄く塗られ。ピンクのチークとピンクのグロス。 服どころか顔まで重い気がする…。 薫と前嶋を睨み上げると、窓際に立っていた真藤が満足そうにこっちを見ている姿が視界に入った。 「立派に女にしか見えないから安心しろ、天原」 腕組みしながらニヤリと笑って言うその態度に俺が切れたのは言うまでもない。 「安心なんかできるか!!」 「ほらほら~、女の子がそんな言葉づかいしない~」 「…薫…」 ドッと疲れが押し寄せる。 助けを求めて視線を彷徨わせた先の壁際。そこに寄りかかっていたはずの花魁は、今度は床に身を突っ伏して瀕死の状態。 いや、もしかしたら、 ご…ご臨終…? とりあえず両手を合わせて冥福を祈ってやった。

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