205 / 226
【番外編】文化祭3
「残念ですが、偉そう…ではなく偉いんですよ。執務実行委員長の権限の中には、学園の行事を妨害する人間がいた場合、教師を通さず直接警察に突き出す事ができる、というものがあるんです」
「ハッ!やれるもんならやってみろ!!」
冷静な秋の態度にキレたのか、金髪男がいきなり拳を振りかざした。
「危ないッ!」
秋の前に飛び出そうとして咄嗟に体が動く。けれど、それは横にいる男によって妨げられてしまった。
「離せっ!秋が!!」
「お嬢ちゃんはそっちじゃなくてこっ…、」
ニヤニヤ笑いながら言う男の言葉が、突然止まった。
何かに驚くように俺の斜め後ろを見て固まっている。
え?
振り向いた俺の目に映ったのは、金髪男の腕を掴んで拘束し、その鳩尾に膝蹴りを入れている秋の姿と、それによって「ぅグッ!」という呻き声を上げて前のめりになる金髪男の姿だった。
これにはさすがに、その場にいた全員が固まった。
みんな、秋が誰かに暴力を振るう姿を見て茫然としている。
もちろん俺だって驚いた。
…秋って、喧嘩強いんだ…。
結局その後、金髪男が床に崩れ落ちた事によって戦意喪失した彼らは、執務実行委員によって生徒指導室まで連行される事となった。
ひと騒動がおさまり、ようやく和やかな空気が流れ始めた文化祭。
「お前がそこにいると、また問題が起きかねない」
と、真藤に無理やり室内に引き戻された俺は、いったい誰が最初にあそこに立てって言ったんだよ!!と激怒しながらも、皆に迷惑をかけるのもイヤで大人しく給仕に徹する事にした。
「いらっしゃ…、」
「深君、そのまま僕の所にお嫁に来ない?」
振り向いた先にいたのは、夏川先輩と一緒の鷹宮さんだった。
せっかくのサービススマイルも、この人達相手では思いっきり固まってしまう。
だって来た早々、お嫁に来ない?ってありえないだろ…。
「そもそも俺は男です!婿ならともかく嫁には行けません!」
そう叫んだら、何故か夏川先輩共々爆笑してくれた…。ちょっとだけイラッ。
「…早くご注文をどうぞ」
「深君」
「なんですか?」
「だから、深君を注文」
「………。皆川ー、コーヒー2つー」
目の前でニコニコと笑っている鷹宮さんを無視して、厨房係の皆川にオーダーを告げる。そして、有無を言わせず窓際の席に2人を連行…じゃなくて案内した。
とりあえず座らせてしまえば後はどうとでもなる。放っておけばなんとかなるだろう。
先輩相手にかなり失礼な事を考えている自覚はあるけれど、自分の身の安全には変えられない。
尚もセクハラをしようとする鷹宮先輩の手を擦り抜けて、また定位置に戻った。
何やら鷹宮さん方向からピンク色の視線が突き刺さってくるけど、気にしない気にしない…。
「…アンタ…、なんて格好してんだ…」
「え?」
新たに入って来たらしい客が、背後から呆れたような声をかけてきた。それも、凄く聞き覚えのある声。
イヤーな予感に恐る恐る振り向いた先には、予想した通りの人物がこっちを見て溜息を吐いている。
「ひとの顔見て溜息吐くな!…本当に溜息を吐きたいのは俺の方だ…」
そう返せば、
「あぁ、アンタの趣味じゃなかったのかそれ。安心した」
鼻で笑ってくれちゃって…。本当にムカつくぞお前!
ムカつくけれど、後ろから真藤が睨んでいるのがわかるだけに、暴言など吐く事が出来ない。
『お客様は神様だと思え。売上額が最高だったクラスには毎回賞品が出るんだからな。しっかりしろよ』
今朝、出会った早々に言われた言葉を思い出し、渋々お決まりのセリフを宮原に向けた。
「ご注文はなんだよ」
「アンタ」
「は?」
「だからアンタを注文」
「………」
鷹宮さんと宮原だけは共通点なんてないと思ってたのに、まさか根本が同類だったとは…。
変な笑いが込み上げてくる。
思わず笑うと、鈍くはない宮原は意味はわからずとも自分が笑われている事はわかったらしく、ムッとしたように眉を顰めた。
「宮原はそこの席に座って。…皆川ー、アイスティー1つー」
やっぱりまた有無を言わさずに、宮原を教室後方の席に座らせて完了。
うん。完璧!
ゴツッ
「痛っ!」
突如として衝撃を受けた後頭部。
勢いよく振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべた魔王…じゃなくて真藤が、拳を握りしめて立っていた。
「勝手に客のオーダーを決めるんじゃない」
「………」
……俺がどうなってもいいと…?
結局その後、居座ろうとする鷹宮さんと夏川先輩と宮原を教室から丁重に追い出し、なんだかんだ言って、俺達のクラスのカフェはかなりの売り上げを叩きだして文化祭を終える事ができた。
その日の夜。
後夜祭と称した“文化祭お疲れ様でしたパーティー”が、文化祭の時に着ていた衣装のまま参加、という事を義務付けられていると知った俺が早々に逃げ出したのは言うまでもない。
ともだちにシェアしよう!