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【社会人番外編】聖夜の奇跡1

「着いたー!」 「なんだか久し振りに戻ってきた気がするな」 「俺は去年来たけど、秋は2年振りくらいになるんじゃない?」 「あぁ、そうだね。そう言われるとそうかもしれない」 苦笑しながら言う秋と飛行機を下り、久し振りに日本の地を踏んだ。 向こう(アメリカ)もかなり寒いけれど、日本の寒さは芯から冷えるような一種独特なものがある。 飛行機から建物の中に入るまでの間、ほんの数メートルだけ外の空気に触れたけれど、思った以上に体感温度が低くてちょっとだけ怯みそうだ。 「クリスマスか…」 「まさかイブの夜を空の上で過ごす事になるとは思わなかったよ。まぁ、深と一緒ならどこでもいいけど」 「秋…、恥ずかしい」 相変わらず隠す事なく甘い言葉を紡ぐ秋に顔を熱くしながらも、長い列に並んで入国審査を受けて到着ロビーへ向かう。 時期が時期だからか物凄く混雑していた。入国審査を通るだけで1時間近くかかってしまい、既に二人ともお疲れモードだ。 到着ロビーに出ると、そこはもう黒山のひとだかり。後ろ手に引き摺っているスーツケースを誰かにぶつけてしまいそうだ。 「日本に帰ってくるとそれだけで気持ちが落ち着く…って、こんな時に俺って日本人だな ーって思う」 顔を緩ませる俺に、秋は「同じく」と言いながら笑みを浮かべる。 人の波を縫うようにしてそんな事を言いながらロビーを歩き、タクシー乗り場に向かった。 その時。 ドンッ 身体の前面に小さな衝撃をくらった。 秋の方を見ていた俺の余所見が原因で、何かにぶつかってしまったようだ。 咄嗟に謝ろうと俺が口を開きかけるよりも先に聞こえた声。それは意外な事に子供の声だった。 「わッ…、お兄さんしっかり前をみて歩かないとケガするぞ」 「あ…うん、ゴメン」 ぶつかってしまったのは、どう見てもまだ5~6歳くらいの子供だった。なのに、口調がやけに男前だ。 怪我するのはどっちかって言うと君の方なんじゃ…。 そう口にしかけたけれど、その子の持つ雰囲気が妙に落ち着いていて、思わず口を噤んだ。 秋もその子の独特な雰囲気に気が付いたらしく、興味深そうに見つめている。 そして気づけば、その子も俺の事をじーっと見返してきていた。 「…え…っと、何…かな?」 「んー…、俺、お兄さんと会ったことないよな?」 「そう…だね。たぶん、会った事ないと思うけど」 戸惑いながら答えるも、やはり何かが引っ掛かっているらしく眉を寄せて考え込んでしまった。 「誰かと似てたのかもしれないね」 秋が優しく口を挟んだ。それでもその子は納得出来ないらしく、「そういうんじゃない」と首を横に振る。 いったいどうしたものか…。 困惑に首を傾げて少年を見つめる 見た目の割にしっかり言葉を話すし、受け答えも物凄くしっかりしている。 なんだか凄い子だな…なんて見ていたら、不意におかしな感覚に襲われた。 俺もこの子を知っているような…、懐かしいような既知感。 胸に込み上げる寂寥感。 …なんだ…これ…。 胸が…痛い…。 息苦しさに耐えきれず、胸元を片手でギュッと握りしめた。 「…深?」 俺の様子を不審に思ったのか、秋が顔を覗き込んでくる。と同時に、元気の良い女の人の声が響き渡った。 「宇宙(そら)!また一人でフラフラしてっ!」 俺と秋とその子、三人共に振り向くと、こっちに向かって走ってくる30代前半程の女 の人の姿が見えた。 途端に目の前の少年の顔に、(うわッ)とでも言いそうな表情が浮かぶ。 走り寄って来た女性は、目の前にいる少年の肩を掴み、ホッとしたのか息を整えながら柔らかな笑みを浮かべた。 「もうっ、宇宙はどこに行ってもマイペースなんだから!そんなにママを困らせて楽しい?」 「大丈夫だよ、俺のこと信用しろ。迷子なんてダサいことにはならないからさ」 「…宇宙…」 子供らしくない子供。 いつもこんな感じなのか、女性の顔には諦めの表情と共に我が子に対する愛しさが溢れていた。 とてもとても愛している事がわかる暖かな眼差し。 そして、その愛情をしっかりと受け止めている事がわかる宇宙の信頼に満ちた顔。 物凄く素敵な親子だな。 そう思った。 秋と二人で親子の対面を眺めていると、不意に女性がこちらを振り向いた。 「すみません、何かこの子が迷惑をかけてしまいましたか?」 「いえいえ!俺が余所見をしていてぶつかってしまったんです。申し訳ありませんでした」 心配そうな様子に慌てて頭を下げる俺に、優しく首を横に振る。 「とんでもないです。たぶんこの子にも非はあるんでしょうし、気にしないで下さいね」 俺と秋と母親と、大人3人組はニコニコと笑い合う。 そんなのんびりとした空気の中、突然宇宙が何かを思い出したように両手を叩き合わせた。 「思い出した!なんでお兄さんに会ったような気がしたのかわかった!」 「え?」 先程までの男前の態度が、興奮の為か普通の子供のそれに戻ってしまっている。 たぶん、こっちが本来の性格なんだろう。 「俺が時々見る夢に、お兄さんそっくりの人が出てくるんだよ」 「宇宙…、あなたまたそんな事言って…」 宇宙が夢の話を切り出した途端、女性は困ったように溜息を吐いた。 「夢?」 秋が不思議そうにつぶやく。

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