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【社会人番外編】未来への光2

葬儀の時に初めて会ったけれど、宮原の事を大切に思っていた事がよくわかった。 あの人と宇宙を、会わせてみたい。 それが良い事か悪い事かはわからないけれど、でも、絶対に会わせるべきだと思った。 こんなチャンスはもう二度とないかもしれない。今しかない。 そう思ったら、いてもたってもいられなくなって即座に立ち上がった。 いきなり勢いよく立ち上がったせいで、驚いたのか宇宙がビクっと肩を揺らす。 「なんだよいきなりっ」 「ごめん。…あのさ…、宇宙はまだ時間ある?」 「うん、だいじょうぶ」 「じゃあ少しだけ俺に付き合ってよ」 「わかった。お兄さんのたのみなら聞いてやる」 「…それはどうもありがとう…」 どうにもこうにも偉そうな宇宙に、物凄く複雑な気持ちになる。 年上を敬わないのは性格云々の前に魂に根付いてるのかよっ。 「…えーっと…、来るかどうかわからないけど、俺の知り合いを呼びたいから電話していい?」 ベンチへ移動し、雪を払い落してから2人並んで座る。 「どうぞ」と、およそ子供らしからぬ鷹揚な返事に、もはや笑いしか出てこない。 この態度にもさすがに慣れてきた。というより、宇宙らしくてだんだん楽しくなってくる。 ダウンジャケットのポケットからメタリックブルーの携帯を取り出した。 呼び出したアドレスは、今まで一度も使用した事のない番号。 見慣れない番号と、そしてそこから繋がる相手の事を考えると、それだけで全身を緊張が襲う。 通話ボタンを押すだけの行為に、ここまで緊張するのは初めてかもしれない。 画面を見つめたまま固まってしまった俺が不思議だったのか、横から宇宙が手元の携帯を覗き込んできた。 「もしかして番号がわかんないのか?」 「…ん?…あぁ、いや、違うよ。番号はわかるんだけど、ちょっとね」 自分の情けなさに思わず苦笑い。 心に喝を入れ、今度こそ通話ボタンに指をかけた。 side:・・・ ヴーヴーヴー スーツの胸ポケットに入れてある携帯が振動した。 もうすぐ事務所に着くという時に着信を告げた携帯に、すぐ手を伸ばす。 そして、ディスプレイに表示されている懐かしい名前に気が付き、僅かながらに目を見張った。 『着信中。天原深』 驚きの気配が伝わったのか、助手席に座っている幹部の木田(きだ)が、こちらを気にするように警戒の色を纏う。 片手を上げて問題ない事を告げると、途端に車内には通常の空気が戻ってきた。 「もしかすると、またすぐに出るかもしれない。戻らず走ってくれ」 「わかりました」 運転を任している舎弟の返答を聞くと同時に、携帯を耳に当てる。 「はい」 こちらの応えに対して挨拶を返してきたのは、6年前に一度話したきりの…あの時より少し大人びた涼やかな声だった。 side:・・・end 『はい』 呼び出し音が途切れてすぐ、忘れられないほど重みのある低い落ち着いた声が聞こえてきた。 耳に当てた携帯をギュッと握りしめる。 「お久し振りです、征爾さん。天原深です」 『あぁ、本当に久し振りだ。元気そうで何より』 「征爾さんも」 思っていた以上に和やかに進んでいく会話に、肩に入っていた力が抜けた。 横からそんな俺の様子を見ていた宇宙も、問題ない事がわかったらしく、その辺をパタパタと走り回り始める。 「あの、唐突に申し訳ないんですが、例の件、今お願いしてもいいですか?」 『…あぁ、もちろんだ』 ”例の件”だけでわかってくれたらしい。 ――これから先、通常では解決できないような何か困った事があったら、私のところに来なさい。一度だけ、どんな事でも君の願いを叶えると約束しよう―― 6年前の宮原の葬儀の際に、征爾さんが言った言葉。 それを、今こそ使うべきだと思う。 「有難うございます。そんなに時間はとらせません。用件は会ってから言いますので、今から言う場所で待ち合わせしても構いませんか?」 『わかった』 そして俺は、公園の場所を征爾さんに伝えた。 通話の終了したプツッという音と、その後に続いたツーツーツーという音が聞こえた瞬間、ホゥ…と安堵の息がこぼれる。 とりあえず、征爾さんを呼び出すという第一関門は突破した。あとは、ここに来た征爾さんが宇宙と会ってどうなるか…、だ。 さっきまでとは比にならないくらいの緊張が肩に圧し掛かってきた。 そんな俺とは裏腹に、宇宙は元気に雪だるまを作りだす。 その無邪気な様子に、なんだか気が抜けてしまった。 「深~、よんだ人はまだ?」 雪だるま作りに参加してすぐ、『そういえば、お兄さんの名前は?』と聞かれたから教えた。それ以降、宇宙はなんの躊躇もなく普通に呼び捨てにしてくる。 …いや、いいんだけどね、うん。 微妙な気分に浸りながらも「もう少しで来るよ」と答えた時、遊歩道の向こう側から、物凄い存在感を放つコートを羽織ったダークスーツの人影が二人、こちらに向かって歩いてくる姿が見えた。 征爾さんと、あともう一人は知らない人。その人も、堅気ではないと一目でわかる隙のなさ。 …来てくれた。 自分で呼んでおきながら、相変わらずの迫力にビクついている俺がいる。 俺がこんなって事は、子供である宇宙はもっと恐怖を覚えるだろう。 心配になって横を見ると…。 「…そ、宇宙…?」 何故か目をキラキラと輝かせて征爾さん達を見ていた。 単なる怖いもの知らずなのか、それとも、魂に組み込まれた記憶のせいなのか。 とりあえず、宇宙が征爾さんを怖がらないという事がわかってホッとする一方、宇宙の底無しの豪胆さに感心もする。 将来大物になるだろうと確信出来る様子に、変な笑いが込み上げてきた。 「…お久し振りです。今日は急な呼び出しに応じてくれて有難うございました」 「いや、気にしなくていい」 目の前に立つ征爾さんの双眸は、確実に以前よりも力を増していた。 少し離れた場所には、征爾さんに付き添ってきたダークスーツの人がこっちを見て立っている。 俺が見た事に気が付くと、微かに目礼をされた。 「この人が、さっき深がきんちょうしながらカチコチに固まって電話してた人なのか?」 俺の横に来た宇宙が、なんの躊躇いもなく征爾さんを見上げてそんな事を言い出す。 焦ったのは俺だけ。 「ちょっ…、宇宙」 やめてくれ、恥ずかしすぎるっ。 慌ててその口元を押さえようと悪戦苦闘していたら、征爾さんが押し殺すような声で笑いだした。 「ククククッ…、君はあの時緊張していたのか」 「………」 うわーーーっ、宇宙覚えてろよ! 熱くなる頬を誤魔化したくて手の甲で擦りながら征爾さんを見ると、その向こうに控えていた男の人までも笑っているのが見えた。 普通に笑っているならともかく、顔を横に背けて咳払いをしている様が、明らかに笑いを隠そうとしているのがわかって居たたまれなくなる。

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