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第2話

帰り道、慶はコンビニで酒やつまみを大量に買い込んだ。 家につくと、スーツのジャケットと鞄を乱暴にソファーへ叩きつけ、早速缶ビールに口を付けた。 「どいつもこいつも…クソ…クソッ!」 一缶を一気飲みし、ネクタイを弛め、だらしのない姿の慶は次々に缶ビールを空にしていく。 空きっ腹に流し込んだアルコールがすぐ全身にに回り、すっかり酔っ払いになった慶はテーブルを拳で叩いて独りブツブツと喋っていた。 「暇なお前が教育すればいいじゃねーか。嫁も嫁で勝手ばっかしやがって」 最後の一缶の残りをグイッと傾けて飲み干すと、八つ当たりのように缶を投げ飛ばした。 「俺の人生こんなはずじゃなかったのに」 怒っていたかと思えば途端に涙ぐみ鼻を啜りだした。 ぼやけた視界を手の甲で拭い、立ち上がった慶はベランダへ出て夜風に当たった。 「はあ、俺が死んでも誰も悲しまないだろうな」 手摺から下を覗いた慶は呟きながら身を乗り出した。 「死んだら楽になれるかな…」 手摺を掴む手に力を込めて自分の体を持ち上げる。その勢いで頭から落ちたら無事ではいられないだろう。 更に片脚を乗せ本気で飛び降りるのかと思った時だ。 「うわっ!?」 ブワリと突風が吹き、真下を向いていた慶の体が浮き上がるとベランダの硬いアスファルトに腰を打ち付けた。 「イテテ…」 「やめておけ。こんな所から飛び降りても無駄に苦しむだけだ」 腰を摩る慶の頭上から突如聞こえた知らない声。 慶は慌てて顔を上げると、そこには信じられない光景が広がっていた。 「三階程度から落ちて生き延びてでもしてみろ。もっと不自由な生活が待っているぞ」 「ッ、誰?!死神!?」 ベランダの手摺に鳥が羽を休めるように立つ、大きな漆黒の翼を持った男。 全身黒い装飾に身を包み、整った顔のパーツに鋭い目の奥に光る黄金の瞳。 慶が死神と思ったのは、その確実に人間ではない男が持つ大きなカマを見たからだろう。 バサリと羽を羽ばたかせ慶の足元に降り立ったその男は慶を観察するように見つめた。 「……ふん、随分荒んでいるな」 「あ、あんた誰っ」 「私はアレクシス。死を司る神だ」 「神…?」 「前々から死にたいと呟くお前を監視していた。お前は本当に死にたいと思っているのか?」 「っ…」 「ふん、まあいい」 「えっ…」 アレクシスと名乗った男が慶の目の前に掌をかざすと、目がうつろになった慶は意識を無くしてその場に倒れ込んだ。

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