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第4話

「はぁ……」 美子の店から、一旦家に帰って大学にきた伊織。 ギリギリで入った教室の前方を見て、思わずため息をついた。 「なんでかなぁ……」 前から二番目の列に、見知った後ろ姿があった。 まだ一度も染めたことがないだろう黒髪。 一般男性より一回り小さく華奢な背中。 よく着ているギンガムチェックのシャツ。 今日は、鮮やかな青のギンガムチェック。 少し暑いのか、袖をまくっている。 そこから伸びる腕には、チープな黒の腕時計。 伊織は、ゆっくりと自分に目をやる。 アイルランド人の祖父から受け継いだレディシュ。 細身とはいえ、しっかりとした骨格。 母親似の派手な顔の為、地味な服が基本。 今日は白のTシャツとデニム。 左腕には、二十歳の誕生日に父親から貰ったアンティークのオメガ。 素直で純朴そうな青年と天邪鬼で遊んでそうな自分。 「はぁ……」 見た目まで自分と真逆な青年を選んだ彼に、伊織は不思議でならなかった。 何故、自分に告白してきたのか。 何故、自分と付き合っていたのか。 何故、自分に愛してると言ったのか。 伊織は、東吾と別れてから、それらのことをずっと考えていた。 そして、最後に行き着くのは、付き合わなければ良かったということだった。 どんなに彼のことが好きでも、彼からの告白を断って、ひっそりと彼を思っていれば良かったのだ。 そうすれば、こんな思いをしなくて済んだ。 彼に嫌われることなく、真逆の青年と比べられることなく、失恋できた。 「……はぁ」 伊織は、この後、あの真逆の青年を迎えに来るであろう彼を想像して、三度(みたび)ため息をついた。

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