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第6話

「伊織、はい、コレ。博多のお土産、通〇もん!」 東吾は、初めからフレンドリーだった。 下田から紹介された東吾は、すぐに伊織のことを下の名前で呼んだ。 大学内で有名人となっていた伊織に、媚びることも臆することもなく、一学友として話しかけてきた東吾。 対して伊織は、 「いらない」 自分のスタンスを崩すことはなかった、表面上は。 伊織がぞんざいな態度とっても、東吾は気にすることはなかった。 顔を合わせれば、声を掛けてくる。 今日の出来事を勝手に話し掛けてくる。 講義課題についての意見を求めてくる。 たまに、お菓子を与えてくる。 そして、常に優しい笑顔を向けてくれる。 伊織は、自分がゲイだと自覚していた。 また、東吾もゲイではないかと思っていた。 東吾自身が気づいているかどうか分からないが、伊織はそう感じていた。 東吾の言動と雰囲気で、伊織の心は、いつの間にか東吾一色になっていた。 ただ、頭は冷静だった。 伊織は高校生のとき、悲惨な初恋をしていた。 そのことも、伊織が他人と良好な関係を築けない一因であった。 だから、伊織は冷静に考えていた。 東吾は自分のことをゲイだと思っていない。 仮にそう思っていたら、俺で自分がゲイかどうか確かめようとしているだけだ。 いや、もしかしたら、東吾もあの男と一緒かもしれない。 指をさし、"コイツに唆されたんだ!!"と罵るかもしれない。 そうだ、決して俺を好きだから優しくしているんじゃない。 そもそも、俺は彼に何一つ良い印象を与えていない。 誰もこんな天邪鬼を好きになるわけない。 伊織は、膨らむ恋心と同じように疑心も一緒に募らせていった。

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