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第10話
美親の部屋のドアが、"コンコンコン"と鳴る。
続けて小さな声が聞こえた。
「Can I come in ?」
「Sure」
美親の了承を得て、ダニエルが部屋の中に入る。
ダニエルは、ベッドの横に座る美親に近づき、そのまま隣りに座った。
「Is he all right ?」
「I think …he's already done」
美親のベッドで、スヤスヤと眠る伊織。
美しいその顔の目元は、真っ赤に腫れている。
美親が伊織と出会ったのはSNSだった。
美親22歳、伊織17歳。
歳が離れているものの、同じ悩みを持つ者同士。
二人が心を通わすのに、そう時間はかからなかった。
当時、伊織は1つ年上の高校の先輩に恋をしていた。
勿論、伊織はその気持ちを伝えるつもりはなく、ただ美親に"自分には好きな人がいて淡い恋心を抱いているのだ"と、恥ずかしそうに話すだけだった。
そんなある日、美親に伊織から1本の電話が掛かってきた。
『チカ、俺、先輩と付き合うことになった!』
伊織の話によると、数日前、いつものように学校の図書館で自主学習をしていたとき、突然先輩が現れ、伊織に声を掛けてきて付き合うことになった、とのことだった。
美親は心配した。
"何だか上手くいきすぎている"、と。
案の定、1ヶ月後、伊織はフラれた。
しかも、周囲に人がいる中、"コイツはゲイだ!俺は、コイツに唆されたんだ!"と指を指され暴露さて。
そのことを美親に話しているときの伊織は、完全に冷めていた。
そして、綺麗な顔をより美しく歪ませ言った。
「俺が好きな人は、みんな俺のことが憎いんだよ」
美親は、寝ている伊織の頭をそっと撫でる。
伊織の話から、"東吾"は良い人物だろう想像できた。
伊織を罵った先輩とは違い、"東吾"は伊織の意を汲んでいるような気がしたからだ。
そう、後は伊織の問題なのだ。
確かに、伊織が天邪鬼になったのは、今まで出会った人間が良くなかったからだ。
だからと言って、それを周囲がどうこうすることもできない。
"素直になれ"と諭すことはできても、そうできるかどうかは伊織次第だ。
美親の肩を、そっとダニエルが抱く。
「I think he will be happy ……」
「…yeah」
美親が横を向くと、慈しむような表情のダニエルと目が合う。
美親は思う。
自分は、運良く、こうやって一緒に寄り添ってくれるパートナーに出会えた。
天邪鬼な伊織にも、いつか心を許せるパートナーに巡り逢ってほしい。
美親は、ただただ、優しく伊織の頭を撫で続けるのだった。
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