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第17話
時刻が6時を回り、人気 が少なくなった研究棟。
――タッタッタッタ……――
――タッタッタッタ……――
薄白い廊下に、リズムの早い二つの音が響く。
伊織は、はじめこそ抵抗したものの、一切を無視する東吾に、渋々引っ張られることを受け入れていた。
エレベーターは使わず階段を上がり、下田教授の研究室を過ぎ、伊織の知らない部屋の前で東吾は足を止めた。
東吾は、かるっていた鞄から器用に片手で鍵を取り出し、目の前の扉を開けた。
「わっ!?」
握られていた右腕を思いっきり引っ張られ、つんのめるようにして部屋の中に入れられた伊織。
廊下と違い、灯 りのついていない部屋に、伊織は瞳を馴染ませよう目を細める。
――バタンッ……カチャ――
伊織の背後で、扉が閉められる音がした。
ほぼ光を失った部屋。
まだ暗さに対応していない伊織は、急に恐ろしくなった。
「東吾、で、電気つけて!」
扉付近にいるであろう東吾に、部屋の明かりをつけてもらおうと声をかけた伊織だったが、その願いは叶わなかった。
代わりに、
「イッ!!」
肩を掴まれグイっと反対を向かされると、そのまま壁に押し付けられた。
「な、何すんだ!!」
顔の見えない東吾に向かって声を荒げた伊織だったが、それも一瞬で。
「ンンーーーッ!?」
伊織の口は、すぐさま東吾の口によって塞がれた。
「ンッ……ンック、ンッ!!」
伊織は何が起こっているのか理解できなかった。
伊織と東吾の短い付き合いの中で、キスは1度だけ。
しかも、綿に触れるような優しいキスだった。
にもかかわらず、今、東吾から与えられているのは、伊織を支配するような獰猛で高圧的なキス。
恋愛経験の乏しい伊織は、どうすることも出来きずただ受け入れるだけ。
口内を犯す東吾の舌から逃げようとしても、すぐに絡めとられる。
顔をそむけようと左右に首を振っても、先回りするように東吾の唇が嚙みつく。
東吾の肩を押して物理的に逃げようと力を入れるも、すぐにその手を捕られ、壁に縫い付けられる。
伊織は何とか抗おうと、恐怖が占領しようとする頭を必死に働かした。
そして、思いついた最後の望みを実行する。
「痛ッ!!」
伊織は東吾の足を思いっきり踏んづけた。
あまりの痛さに伊織の口から自分の口を離した東吾。
その隙をついて、伊織は東吾を突き飛ばす。
――ガシャンッ――
突き飛ばされた東吾は、近くあったキャビネットにぶつかった。
伊織は、ドクドクと体に響く心音を整えるため、大きな呼吸を繰り返しながら、いつの間にか馴染んでいた瞳で東吾の方を見た。
頭を打ったのか、下を向いて後頭部に手を当て、小さな声で痛みを漏らしている。
今なら逃げれる!
そう思うのに、伊織の足は根を張ったように動かなかった。
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